遠隔操作

  Kay君の得体のしれない”ホワイトサンシックンドリンシードオイル”。その後も次々レポートが入ってきている。どうしたらいいのかというのでとりあえず湯煎してみたら少しは水分を飛ばすことができるかもしれない。少photo11.jpg量で試してみれば?といったところ、翌日、「見てくれ。なんだか黒くなっちゃった。」との報告。見ると本当に黒くなっている。ほとんど見た目はブラックオイル。どうやら湯煎ではなく直に火にかけたようだ。確かに真っ黒だが、市販のサンシックンphoto13.jpgドリンシードは水分を飛ばすため加熱処理される工程の中で飴色に変化していることを考えると、ちょっと黒すぎるとはいえ、使えないことはないだろう。そう伝え、たぶん沸騰したお湯の中に容器をつけて湯煎すれば100度の温度に保たれるので、それなら黒く変色させないで何とかなるんじゃないかと言っておいた。しかし実際のところどうなるかはやったことがないので正直なところはっきりとはわからない。

 すると翌日にはさっそくその”ブラックサンシックンドリンシード”と、ついでに水が分離しないままの”ホワイトサンシックンドリンシード”で絵具を練って塗布したサンプル写真が送られてきた。おそらくクリムソンレーキを練ったもの。見ると両方とも厚みのあるグレーズになっているようだ。黒いほうで練ったもののほうが色調が暗く透明感が強いように見えるが、これはオイル自体の色の違いがそのまま影響しているとも思える。photo9.jpgただ、これはフランドル派のメディウムに関してちょっと実験してみたことだが、例えば同じクリムソンレーキを練っても乾性油だけで練るとかなり透明感が強くなるが、その中に例えば膠を少しずつ混ぜ込んでみると、混ぜ込む量が多くなるにしたがってどんどん不透明化していきピンク色に近付いていく。最終的に膠だけになればほぼ顔料そのものの色に近い発色になるだろう。つまり水性のメディウムと油性のメディウムとでは屈折率の関係で発色そのものがまるで違ってくる。http://www.osamu-obi.com/blog/2011/03/in-paris.html

このKay君の”ホワイトオイル”は水分がかなり入っている分それに近い効果が表れているのかもしれない。

photo10.jpg ところで次の指令は、「2つのメディウムを比較して、乾燥時間に違いはあるか?筆で描くときに描き心地の違いは?筆の動きが重くはないか?可塑性はちゃんと保つか?

 翌日の報告は「乾燥自体に違いはない。2つともすでに乾いている。黒いほうのは重力にまけて垂れてきたが、白いほうは垂れてくることはない。描き心地はさらっとしている。」

 乾燥速度に違いのないのはいいことだ。卵黄を入れてエマルジョン化したものは少し乾燥時間は遅くなる傾向があるようなので、こちらの方がその意味では優秀。しかも油と水だけなのでメディウムの長期保存に気を使うこともない。可塑性は黒いほうが保てないのはわかっていた。一般的なサンシックンドリンシードと同じ。(あくまでもそれだけで顔料を練った場合の話で、市販の絵の具にはすでに可塑剤が添加されているのでよっぽど油で希釈しない限り問題はないはずだが。)白いほうが可塑性を保つというのはなかなか興味深い結果だった。

しかも画像を見る限り、乾燥後の色は塗布直後に比べ、かなり透明度を増しているように見える。要は水気が抜けて純粋に乾性油で練った状態の色に戻ったというところか。これだけ見るとかなりいいとこずくめのようにも見える。最後の問題は描き心地。その点については「白いほうのは筆はよく動く。ただしあまり粘りはない。感じとしてはピンカスのエマルジョンに近いかな…。」とのこと。ピンカスというのはパリの美術大学ボザールの絵画技法の教授の名前。http://www.osamu-obi.com/blog/2010/10/post-13.html古典絵画のメディウムとして油性とエマルジョンのミックステクニックのレシピを教えており、Kay君はそのピンカス教授の本を見て、独学で初の模写、レンブラントの”牛肉の絵”に挑戦していたわけだ。実際その時のKay君の使っていた絵具は、初めてでちゃんと練れていなかったためもあろうが(さらに最初は顔料もチタニウムホワイトだったっけ。)少々ざらざらしていて粘りがなく、ためしに自分の使っているサンシックンドオイルプラス少量の卵黄で練ったシルバーホワイトを分けてあげたところ、「なんだ、これならうまく描ける。」ということでメディウムを切り替えた経緯があった。http://www.osamu-obi.com/blog/2011/02/post-64.htmlこればかりは翻訳機を介した遠隔操作みたいな今の状態では何とも言えない。実際自分の手でいじってみなくては実際どうなのかはわからないが、なんとなく聞いた感じでは、粘調性のあるどっしりとした絵具ではなさそうな気もする。もしかしたらある程度水を飛ばす程度のところまで湯煎して止めておけばちょうどいい感じになるかもしれない。まあ、とにかくいろんな意味で面白いここ数日だった。まだこの”遠隔操作”による実験は終わっていないので、そのうちもっと面白い報告が入るかもしれない。Kay君に向けた私からの最高の褒め言葉。「君は失敗の天才だ!」

 それはそうと今日ほっとする知らせが届いた。Kay君の親友、Martinhttp://www.osamu-obi.com/blog/2011/03/ http://www.osamu-obi.com/blog/2011/06/post-104.htmlのお兄さん(弟?)は今コロンビアにいるジャーナリストだそうだがしばらく前にコロンビアのFARC(コロンビア革命軍)反乱軍によって拉致されていたらしい。数日前聞くまで知らなかったのだが、検索してみるとあちらでも結構な騒ぎになっていたようだ。BBCなどでもニュース映像が出ていた。今朝、Kay君からのメールによると無事解放されたようでほっとしている。

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