北京、李可染画院でのワークショップ その1

IMG_7939_R

先月の話。実は7月半ばより2週間、北京に行っていた。李可染画院というアカデミーでワークショップを行うために。私にとっては全く初めての北京、いや、中国自体が始めてのこと。去年あたりからなぜか中国からのオファーが入り始め、北京でのワークショップの依頼が4件ほど入っていた。どうやら私のFacebookやらインスタグラム、youtubeやホームページなどを通じて中国で情報が広まっているらしい。中国ではインターネットの規制のため、Facebook、インスタグラム、youtube、ツイッターなど、こちらで普通に見られるSNSが見られないはずだが、それでも抜け道はあるらしく、誰かが私の投稿を中国人が一般的に使っているWechat上などで流すことで広まったらしく、時々何人かの中国人達から私の作品が中国で広まっているという話は聞いていた。

とはいえ、全く行ったこともない中国でいきなりワークショップというのはちょっと不安。そんなときに紹介された李可染画院は日日会にいたときからの知り合いでもある李暁剛さんが教えているアカデミーだとわかり、それならと思い切ってやってみることにしたというわけ。

今回は2週間という、これまでにやった中でも比較的長い期間が与えられているため、内容も思いきって欲張ったものにすることにした。2週間でレンブラントの模写一枚とヌードモデルを使った人物油彩一枚。下地作業は李暁剛さんも普段そこで教えているとのことから事前に学生達と準備していただくこととし、時間の節約を図ることにした。

始めて降り立った北京は暑かった・・・。行った時は日本ではまだ梅雨の最中。結構涼しい時期だったが、向こうは既に気温、36度を超える真夏日だった。空港には今回通訳をしてくれる黄さんが運転手の方と一緒に待っていてくれた。車中から見る風景は日本や韓国と一見それほど変らないようにも思えたが、ときおり見えてくる住宅群を見るとやはりちょっと違う。一言で言うと、規模が大きい。何十階建てのマンションが群れをなしている光景は地震国日本ではなかなか見られない。高層マンション群は韓国でも非常に多く見られるのだが、韓国の場合はもうちょっと密集している。中国の場合、1棟1棟の間隔がかなり広く、遠くまでどーんと並ぶ姿は壮観だ。建築様式も日本や韓国より自由度があるのか、マンション群によってずいぶんバラエティ―に富んだスタイルを持っているように感じる。

車で1時間半くらいかかったろうか。目的地の李可染画院に着く。立派なエントランスを通り、2階の院長室に案内された。ここは中国画の世界での著名画家、李可染によって創立された画院らしい。李可染画伯は日本での留学経験もあり、日本画界の重鎮達との親交もあったようだ。今はその御子息である李庚氏がその院長を務めている。院内にはいくつものアトリエ、教鞭を執る教員のための広い研究室、企画展のための広い展示室があり、食堂も併設されている。今回私はホテルに宿泊させてもらったが、学生達のための宿泊施設もあるようだ。日本にはこのような種類のアカデミーをあまり見たことはないのだが、中国では他にもこのような画院がいくつもあるようだ。

挨拶を終えたあと、李暁剛さんの案内でさっそくアトリエに案内していただいた。天井も高く、大きなスペースで学生達が地塗り作業をしている最中だった。ふと見ると以前開かれた講座で描かれたという巨大なフレスコ画の模写が壁面いっぱいに描かれている。教室に入った瞬間から、確かにここが日本ではないとはっきりとわかる。次々に受講生の口から出てくる質問の嵐!その声の大きさ!用意された椅子に座ろうとすると、周りに集まって座る人の距離があまりにも近い!本当に手が届く距離に、もうびっしりと・・・。ほとんどその雰囲気に圧倒されながら質問に答えていた。講座はあさってからなのに・・・。いずれにしろ、これはうれしい驚き。こちらとしてもこういう学ぶ気満々の受講生を目の前にすると、やる気が出るというもの。。

その日は画院のスタッフの方々と夕食に。初の本場北京の北京ダックをいただく。美味い!

翌日は夕方にワークショップ会場の準備のために画院に行くことになっていたが、それまでは李さんのアシスタント、雨潼(ユトン)さんの案内で北京を観光させていただくことになった。朝、ホテルまで迎えに来てくれた車には通訳の黄さんの他に、人なつこそうな青年が一人。一体どういう人選なのかわからないが、たぶん、たまたまその時ののりで・・・、という感じじゃないかな?

北京は広い。画院のあるのは北京の南側の端なのだが、中心部まで行こうとすると1時間近くかかる。車は高速を走りまずは北京の骨董街へ。そこはかなりの広い敷地内に店舗を構えた店から地べたに店を広げたような露店まで、ごった返している。何か目的を持って買いに行ったわけではなく、ちょっとしたお土産程度のものでもあればと露店を見て回った。たまたま見かけた古本を扱う店に中国の現代写実画家達の豪華本が置いてあって、ちょっと手に取ってみた。かなりの大型本で、中には以前日本で一緒に展覧会に出品してくれた  冷軍氏の作品も載っているが、ほとんどは日本ではまだ紹介されていない作家達。皆、かなりの高いレベルだ。たぶん日本ではまだまだ知られていない力のある作家が大勢いるんだろう・・・。それほど高くもなかったし思わず買おうかとも思ったが、なにぶん半端じゃない重さ。日本に持って帰る自信がないのであきらめた。絵ばかり売っている一角もあり、古いものもあるかと思えば今描いたものを展示販売しているところもある。さすがは中国、紙に水墨といったものが多いが、びっくりしたのは森本草介の素人っぽい模写も売られていたこと。何でもありだな。

結局そこでは露店で売られていた古銭数枚と石を掘って作られたアクセサリーを数個買った。さすがだと思ったのは、いざ、買おうかと思った瞬間、付添いの雨潼さんが「ちょっと待って!私に任せて。」と店主と値切り交渉を始めたこと。言葉はわからないが雰囲気からすると、なんだかんだといちゃもんをつけてみたり、やっぱ他の店にしようと離れてみたり、いろんなことやってるみたいで、結局結果的には元の値段の半額くらいにまで値切っちゃってた。まあ、数百円の買い物なんだけどね。それを見てるだけで楽しい観光になった。あとで本人に、「中国人はみんなそこまで値切るの?」と聞いてみたところ、「私は上手い方。なんとなくいくらまで値切れるかわかるんです。」とのこと。頼もしいガイドにあたって幸せです。昼ご飯は評判のいいラーメン屋で手打ちの麺で作ったラーメンを食べ、天安門広場に向かう。路上駐車の列のわずかな隙間を狙って車を止め、10分くらい歩いて向かう。広場に入るにはセキュリティチェックを受けなければならない外国人である私はパスポートを見せる必要がある。その辺はかなり厳しいようだ。太陽の照りつける中、とにかく広い天安門広場を歩く。ふと見ると、何もない場所で一列に整列しているように見える人たちがいる。よくよく見るとその理由がわかった。広場の街灯の陰に沿って並んでいるのだ。あんまり暑いので街灯の細い日陰を日よけにしてるのだ。・・・天安門の前まで行って「北京に来たぞ!」の証拠写真をしっかり撮り、引き上げる。不思議だと思ったのは広場も道もこれほどまでに全てが巨大な北京だが、駐車場がほとんどないこと。聞いてみると、だから来る人のほとんどは観光バスを使わなければならないんだとか。

2時過ぎから故宮の中を見学することになっていたが、実は故宮に入るには予約が必要。この時期夏休みの観光客が押し寄せるため、1日8万人までの人数制限があるとのこと。(8万人?それ自体が既に信じがたい数字。)実は前日の夜に予約を入れてくれようとしたのだが、既に売り切れ状態。そこであきらめないのが中国人。いろんなつてをあたってくれた結果、故宮の関係者を通じてなんとか入れることになった。しかも故宮の中まで車で入り、さらに案内までつけてくれるという・・・。凄いな。

そんなわけで入場の列に並ぶこともなく、車でそのまま門をくぐり中へ。そこには故宮の出版物を作っている出版社の若い女性が待っていてくれた。彼女の案内で早速中へ。よくよく考えてみると通訳の黄さんは重慶の人、雨潼さんは北の人、飛び入りの林くんは廈門(アモイ)から来ているという。一人も北京出身者がいない。案内の青さん一人が北京っ子。全員おのぼりさん気分での故宮見学となった。あまりにも広い敷地内にはいくつもの展覧会場があり、それらを丁寧に観るだけでも1日が過ぎてしまいそうだ。建築物や展示物一つ一つが驚くべき緻密な細工からできていて、その技巧に驚くと共に、これだけのものを作り上げるための時間と労力、また財力はどれほどのものだっただろうと思わずにはいられない。3時間ほどをかけ、それでも駆け足で故宮を見終えた。夕食の火鍋で今日も腹一杯。ライトアップされた天安門を横目に画院に帰り、翌日の確認をしてからホテルに戻る。シャワーを浴びて体重計にのってびっくり。2日目にして既に体重が2キロ増し。こりゃやばい。

翌日からワークショップが始まる。ところで今日は終わり。このままのペースじゃ2週間分書き終えられそうにありませんね。

IMG_8014_R

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください