絵画組成教室in Paris

模写仲間のKay君、好奇心の塊。ということでついに自宅に教えに行くこととなった。膠の扱い方、板地(白亜地)の作り方。油絵の具への膠、植物性ゴムの添加の実験…。半分は自分の実験も含めて仲間で試してみようという話。フランス人の普段の生活がどんなものかのぞいてみたいという興味もあった。彼のアパルトマンは、バスティーユからさほど離れていないところにある。一見こんなところに?と思うような袋小路のわきに入り口はあった。中に入るとさらにドア、階段をずっと登った最上階、いわゆる屋根裏部屋のようなところに部屋があった。ごく狭いワンルームの生活空間、隣り合わせに20畳ほどはあるだろうか、斜め天井のいかにも屋根裏部屋といった趣のある細長いアトリエスペース。ふと見ると、窓辺の日あたりには先日教えたサンシックンドリンシード作りのための瓶が置かれている。窓の外には建物に囲まれた明りとりの中庭スペースがあちこちに見える。日本では全く見られないような空間、外側から見るパリとは違う世界、パリを内側から見ている気がする。ものが雑多におかれ、整理もできていないいわゆる”男の作業部屋”だが、なぜかおしゃれに見えてしまうのはやはり建物の風格だろうか…。

まあ、言葉もできないくせによくまあ教えに来るもんだよな、などと思いながらもなんとなく話は通じてしまうから面白いものだ。たぶん同じ部屋で模写をしていた者同士の共通項があってのことだろう。さっそくあらかじめふやかして持ってきた膠を湯煎するところから始め、パネルに前膠を塗る。乾きを待ちながら手順の説明をする。レンブラントの場合、板に直接下地作りをしているが、今使うのはベニヤ板であり、その耐久性を考えて補強のために布を貼ろうと思う。…など。実際に乾いた上に布を張る。乾くまで時間がかかるので絵の具練りの実験にうつる。分析結果によると、一部赤レーキのメディウムの中に植物性のゴムが検出されたという、他では動物性蛋白なども出てきているらしい。

文献の中にチェリーガムの可能性が書かれているのを見て、Kay君さっそくどこかから手に入れてきていた。チェリーガム自体、残念ながらまだ扱った経験がなかった。どうやらアラビアゴムほど簡単には溶解しないようでそちらは今日のところは諦め、持っていったアラビアゴムを使ってみる。アラビアゴムの溶液を直に油と合わせてエマルジョン化するのは骨が折れるので、まずは顔料を(アリザリンレッドレーキ使用)油で練ってそこに添加することにする。その後膠でも同様に試してみる。なぜレンブラントが乾性油以外のものを添加したのか、実感としてはっきりわからないままいたのだが、実際試してみてその理由がなんとなく見えてきた。サンシックンドリンシードのみで練ったアリザリンレッドレーキはレーキ顔料として使うためにはある程度薄く延ばせる程度の緩さにしなければならない。筆で無理なく動かせるほどの油の量で練ったものを実際に塗ってみると、ある程度の厚さがある部分は時間と共に形を失い流れ気味になる。一定量のゴム、膠などを添加することで一度にある程度のグレーズの厚みを持たせながら、形を保たせることができる。今日やってみた感じでは、膠のほうがゲル化しやすいこともあって、より形が崩れにくいように感じた。レンブラントがなぜゴムのほうを選んだのかまでははっきりわからない。実際チェリーガムで試してみたらまた違いがあるのかもしれないが…。そう、卵もやってみればよかったのだが、もしかしたら卵の黄色みがレーキ顔料の透明性に影響するのかもしれない。どちらにしても、水性のものが加わることによって屈折率の関係だろう、レーキは明らかにある程度明色化、そして不透明化する。したがってあまり多くの混入はないだろうと思われる。…あとは乾燥性だが、シルバーホワイトの時のようにエマルジョン化して乾きの速度に影響が出ないかどうか、Kay君に観察してくれるよう頼んでおいた。
そんなことをしているうちにドライヤーにかけておいた布張りの板地も乾いており、さっそく膠に白亜を混入、へらで塗るところまでこぎつけた。10時に始めて気づくと1時過ぎ、食事もして行けよということでさっと料理を作ってくれた。そんな中、ニースに住んでいるという彼のお父さんがやってくる。今度南仏あたりに数日行くつもりだという話が出ると、もしニースに来るなら言ってくれ。寝る場所は充分にあるからうちに泊まったらいい。と言ってくれる。ありがたい話。でもさすがに初対面でそこまで厚かましくはなれそうにないなあ。さらにしばらくすると何度かルーブルで会ったことのあるKay君の友達、Martin君も(つづり、これでいいんだろうか、マルタンて言ってたからたぶん…。)やってくる。明日はまたボザールのデッサン会に行くんだが一緒にどうかという。なんだかここにきて急に知り合いが広がってきているようで面白くなってきた。せっかくフランスに来たんだから、現地の知り合いができるのは悪くない。

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