ボザール

今日は午後、S氏がコンタクトをとってくださって、ボザール大学の絵画組成の教授、ピンカス教授に会う約束になっていた。ボザールに入るのは今日が初めて。外から見る限りそれほど広い大学ではないようだが、そこは古くからの名門、建物そのものに風格がある。そんな中、Sさんについて何やら穴倉のようなところを通り抜けた先にその場所はあった。広さはムサビの組成室の半分から3分の1程度。もとはおそらく建物の間の中庭だったところに屋根をのせて教室にしたようだがその屋根が全面ガラス。なんとも不思議な感覚を覚える。室内にいながら外にいるような。上を見れば重厚な建築物に包まれながらその上には青空。教室に入るとすぐにピンカス教授の顔が見える。Sさんの紹介であいさつを交わす。中には授業に集まり始めた学生たちの顔。今回ここに来た目的の一つはルーブルでの模写に際して作品の化学分析の資料がなにか得られるだろうかというものだった。実際今回研究対象にしたいと考えているレンブラント、ウェイデン…などについてはほとんどがロンドンのナショナルギャラリーから出ている資料を参考にしている。ルーブルでもそのような資料を公開していればいいのだが、今のところ見つけてはいない。残念ながら、その点についての回答は得られなかった。もちろん言葉の壁もあるのだろう。Sさんと、たまたま生徒の中にいた日本人Hさんの助けを借りながらのやり取りだった。しかし印象としてはピンカス教授の考え方教え方の方向が古典絵画に対する興味よりは、今ある材料をどう使いこなすかの方に重点が置かれているように思えた。対してムサビの組成の授業では歴史の中でそれぞれの時代の作家がどのように素材と対話してきたかを通して絵の具の特性と表現の関係を学ばせようとするので、おのずと古典絵画に対して多くの比重がかかる。そんな違いを印象として受け取った。たとえば、今ヨーロッパでは絵の具メーカーがシルバーホワイトを作らなくなってしまっている。ここではどうしているのかと聞いたその答えは「シルバーホワイトはよくない。いまはおもにチタニウムホワイトだ。」の一言。あれこれの話ののち、ここで描いてみてはどうか。それならレンブラントの描き方の手順は教えられる。ということに。まずは「郷に入り手は郷に従え。」せっかくの機会、試してみることにした。そのことで何が得られるのかは全く未知数だが、少なくともこちらでいったいどんな授業がなされているのか、体験してみるだけでも興味深い。ここでは油絵具もすべて手練りでやるらしい。すべて手練りというのは経験のないことだ。ただしよくはわからないのだがメディウムの処方はどうやら樹脂の多いものらしい。最近の分析結果とは違うもののようだ。

ついでにそのまま授業を見学させてもらった。週2回、午後の授業。ピンカス教授を囲むように20人に満たない学生たちがすわる。少人数ならではの対話型の授業。教授の書いた教科書を年長の学生に読ませながら授業を進める。学生たちも好きな時に自由に質問し、教授もそれに答える。どうやら筆について話しているようだ。使いやすい筆、使いにくい筆。学生の髪の毛で作ったという手製の筆まであった。筆の次はパレットについて。そのあとはキャンバスの張り方。どうやらまだあまり描いたことのない1年生もいるようだ。授業を聞きながら突然サンドイッチを食べ始める学生。教授が何か言うが特にたしなめる風でもなく、学生のほうも悪びれない。日本じゃ見られない光景だ。休憩をはさんで絵の具づくりについて。今日はビニル絵の具を練るという授業らしい。教室の一角に大理石板がいくつか設置されている。学生のうち比較的年長者がアシスタントとしてテキパキと働く。顔料を出し、水を加えてへらで練る。さらにアルコール。ある程度練ったところでビニル樹脂を加え、練る。日本ではアクリル絵の具は一般的だが、ビニル絵の具はほとんど見られない。こちらでは一般的なのだろうか。そういえば画材屋でもこのメディウムを売っていたように思う。実演が終わると今日の授業は終わり。最後に質問を受け付ける。2,3、応答があった後、もう質問はないかと聞く。なさそうなのであんた一曲歌えと中国系の学生を促す。そしたらなんと本当に歌いだした。歌い終わるとみんなで「ブラボー。」…、これも日本じゃ見られない光景。

かくして私はなんちゃってボザールの学生になったのであった。ほんと毎日いろんなことあります。

 

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