スペインでのこと。

IMG_6366_R

9月にスペイン、バルセロナにあるMEAM(Museo Europeo de Arte Moderno)」での展覧会、「Realismo Japonés Contemporáneo(現代日本のリアリズム)」について書いた。詳細については帰国後に書くと言っておきながらそろそろ3ヶ月が経とうとしている。展覧会の締め切りやら、現在武蔵美の絵画組成室が中心となって作っている本のための原稿作りやら参考作品の制作、撮影など、目が回るような忙しさの中であっという間にここまで来てしまった。これ以上するとスペインでの細かなことを忘れちゃいそうなのでなんとか少し書いてみることにする。

今回スペインを訪問したのは出品作家5名、ホキ美術館関係者他、一般参加者を含めると20名を少し超える人数となった。羽田から飛行機に乗りロンドンで乗り換えスペインに着いたのは夜7時過ぎだったかな?空港まで迎えに来てくれた日本人ガイドさんに連れられ、バスに乗ってホテルに向かう。車中でガイドさんから脅しがかかる。「最近バルセロナにプロのスリ団が大量に入ってきています。実は既に先に来られているホキ美術館のスタッフの方がホテルのロビーでスリにやられています。」ゲゲゲ・・・既に、しかもホテルで・・・。若干の緊張を覚えながらのチェックインとなった。ホテルはバルセロナ中心部にあるカタルーニャ広場の近くにあり、そこからMEAM(現地の発音では“メアム”となるらしい。)までは徒歩でも20分くらいだろうか、便利な場所にあった。

今回の目的は9月20日から始まる展覧会のオープニングに向けてレセプションへの参加、記者発表、メディア関係の対応・・・など。それに加えて私は現地でのワークショップを担当することになっていた。海外でのワークショップは私にとっても初めての経験で、短い時間内に通訳を交えながら一体何をどう組み立てたらいいものかと全くの手探りだった。幸いMEAMのFacebookページなどを見ると実際そこでもたれているワークショップの映像などをいくつか見ることができたので、それを参考にしながら、現場でのデモンストレーションならば言葉もそれほど必要ないし、短時間でもできるかと考えはじめた。一般的な描き方や知識を伝えようとしてもそんなものは現地の方が本場だろうし、あえて東洋人の私が教えるまでもないだろう。むしろ思いっきり私自身の方法そのままをさらけ出した方が私がスペインでやる意味はあるのかも知れない。そこに興味を覚える人がいてくれるなら・・・。そう考えることにした。短時間で描ききるオイルスケッチなら可能だろう。そんなことを向こうに提案したところそれでいいという。ただ、考えているうちに、ひたすら観客の前で私一人が3時間以上描いているだけでは見る人も飽きるのでは???描きながらずっとしゃべっているわけにもいかないし・・・、と思い始めた。そこで考えたのが、デモンストレーションしながら参加者も一緒に描くという方法。それならば見ているだけでなく参加もできるだろうと・・・。しかしそのためにはある程度方法を説明し、描き始めをみんなの前でやって見せ、それからスタートとなるため、当初の予定だった3時間以内ではなかなか収まりそうになかった。そこで提案したのが、もう少し時間を延長できないかと言うこと。やりとりの結果、5時間まで延ばしてもらえることになった。方針は決まった。はじめの1時間から1時間半はスクリーンに画像を映しての講義、その後、自分が使っているメディウムの作り方を実際に見せる。そして残る時間を使い、モデルを前に実際に描いて見せ、参加者も参加して描いてもらう。描き始めたら基本的に私は自分の絵に集中し、休み時間に周りを見て回る・・・。

さて、ここからの問題は、いかにして準備を進めるかとなる。絵具や筆は普段使っているものをもっていけばいいにしても、すべてというわけにはいかない。できれば普段のように水性白亜地を施したパネルに描きたいのだが、現地に行って短い準備時間の中で必要な材料を調達し、作業する場所を確保するにはどうしたらいいか、そして、本来、私のやっているオイルスケッチは下層描きとグレーズの2工程で仕上げるのだが、1日という時間では乾き時間がとれないため、下層描きまでしかできない。なんとかグレーズまでの工程を見せようとするならあらかじめ下層描きまで済ませた作例を現地で作っておき、当日はそれを使って最後にグレーズの方法を見せられれば・・・。そんなことを考えているときに私のFacebookの投稿に対し、面白い投稿があった。それはMEAMでのワークショップの宣伝をした記事だった。ある男性の書き込みで「私は既に予約した!」というようなものだった。どんな人かと彼のfacebookをのぞいてみると、Barcelona Academy of Art Teacherと書いてあった。バルセロナ・アカデミー・オブ・アートといえば、MEAMが深く関わっているアカデミー、非常にアカデミックな写実表現を教えている学校。そこの教師が今回のワークショップに参加するというならいろいろ助けてもらえるかも知れない。早速彼にメッセージを送ってみると、すぐに快い返事が返ってきた。自分のうちで準備すればいい。とのこと。アカデミーではそのようなことを教えているのかと聞いてみると、そういうことは教えていないとのこと。ではもし他にも貴方の知り合いで、たとえばアカデミーの学生などで私のワークショップに参加する人がいれば、何人か呼んで一緒にプレ・ワークショップをやってみようか?下地作りからメディウム作り、下層描きのデモンストレーションまで教えるよ。と提案すると、話しにのって来てくれた。

ずいぶん前置きが長くなってしまったが、既に向こうに出発する前からこんな準備のやりとりがあってのスペイン入りだった。

話はもどる。スペインでの2日目は、午前中、参加者とともに市内観光から始まった。バスに乗ってグエル公園へ、そこから市内にもどり、完成に向け、工事が急ピッチに進むサグラダファミリアへ。おきまりの観光コースではあるが、書こうと思えば興味深いことは山ほどある。サグラダファミリアで迷子になったり、書き始めたら止まらないのでその辺は割愛しとくとしよう。昼食はゴシック地区のカテドラル前で食べた。気分がいい。料理もうまい。ただしやたらハエが寄ってくる。でも地元の人たちは全然気にしてなかったな。

食事の後は自由時間。ほとんどの人はそのままMEAMの展覧会場に向かった。MEAMはカテドラルのすぐ近く、ピカソ美術館から歩いて1分もかからないところにある。069_R.JPG細い路地を進むとあれ?こんなところに?と思うような所に入り口があるのだが、さてその入り口に座っている若者がいた。彼こそが今回の助け手、「Kostas」だった。バルセロナ・アカデミー・オブ・アートを去年卒業し、今はそこで教える立場だという。国籍はギリシャ。立ち上がると見上げるほどに背が高く、顔中ひげで覆われているが、優しい目をした男。どこかパリで出会ったKay君を思い出させる。 絵画組成教室in Paris 初めて会ったにもかかわらずなんだか昔からの知り合いのような気にさせてくれる気さくな人物だった。簡単に挨拶をし、せっかく来たのだからと一緒に展覧会場を見て回り、早速画材の買い出しに行くことにした。画材屋はそこから歩いて10分くらいの所だろうか、途中道に迷ってすれ違いのおじさんに尋ねたりしながらなんとかたどり着いた。なんと言っても彼もここでは外国人なのだ。仕方が無い。

買い物を終え、地下鉄に乗って一駅、彼の自宅に向かう。観光地の中心からすると人影もまばらな住宅地の集合住宅の集まるあたり。ここだよと言う入り口はびっくりするくらい小さい。天井に手が届きそうな細い階段を上りドアを開けると、そこはダイニングキッチン。奥にはこじんまりとしたベッドルームが一部屋。いかにも若い絵描きが住む部屋という感じ。観光地を外側から眺めるのとはひと味違う、街の日常を内側から眺める感じが好きだ。壁の至る所には彼自身が描いたデッサンや油彩が掛かっている。最近描いたという3人の人物を描いた作品はかなりの大きさだが、一体これをどうやって家から出し入れするのだろう・・・。

さて、今日は何人が来るのかな?と聞くと、自分の他にアカデミーの教師が一人、と学生が二人。合計4人だという。一体このスペースで私も含め5人の地塗り作業をどうやったらいいんだろう・・。そんなことを話している間に次々と参加者がやってくる。次々と自己紹介をするのだが、Johnはイギリス人、Carlは南アフリカ共和国人、Karenはコロンビア人・・・、Kostasはギリシャ人だし、わたしゃ訳のわからぬ日本人・・・あれ?スペイン人が一人もいない・・・。一体どういうことかと聞くうちに少しずつわかってきた。バルセロナ・アカデミー・オブ・アートは19世紀末のフランスのアカデミックな絵画教育を基本にするアカデミーで、他にもイタリアのフィレンツェにも同じようなシステムで学ぶアカデミーがある。2年間の内、1年は主にデッサンをみっちり学ぶ。19世紀末に作られたフランスのシャルル・バルグによるデッサン教本の模写からはじめ、実際に石膏像や人体を見ながらデッサンを徹底的に教えているようだ。2年次から油絵、彫刻、デジタルアートのコースが設けられているらしい。6割以上が外国人というインターナショナルなアカデミーで、授業も英語で行われているという・・・。アカデミーに教えに来たことがある画家達の名前を見てもodd nerdrumや、jeremy lipking他、かなりの画家達の名前が並ぶ。おおざっぱに言うとそんなところ。そのようなアカデミーが日本で考えられるかと言えばなかなか難しいと思うが、ネット上で学生達の作品を見る限り、かなりの水準であることはうかがえる。

さて、1日目のプレ・ワークショップはパネルに水性白亜地作り。それぞれ持ってきたパネルに前膠を施し、綿布を膠で貼り込むところまで。Kostasはなかなか飲み込みがよく、手先も器用、初めてにしては上出来と言える作業ぶりだった。Johnは・・・というと・・・。彼もなかなかのイケメンなのだが、なんと言ったらいいものか、美大生特有のなんとも言えないあの感じ・・・垢抜けないというか野暮ったいというか・・・、うちの大学にもこんなのいるぞっと言う・・・あんまり言うといろんな所に差し障りがあるのでその辺にしておくが、妙な親近感を感じてしまう。いい味出してます。

それぞれ地作りを終えると乾かす場所を探して台所の棚の上やらテーブルの上やら置けそうな所を探して置いていく。ああ、今頃他の日本人達はフラメンコを見ながら豪華なディナーを食べてる頃だろうなあ・・・。なんて思いながらもそれはそれで他では得られない楽しい時間を過ごした。結局作業が終わったのは9時過ぎ。とにかく片付けられるだけ片付けて、翌日朝の約束時間を確認し、帰ることにした。帰りの道はホテルの近くに住んでいるというKarenが案内してくれた。バスに乗って近くまでいけるという。バスに揺られながら気がついた。一生懸命になっていて、夕食を食べるのも忘れていた。Karenに頼んで一緒に近くのBarで食べてもらうことに。もう何を食べたか記憶も定かではないが、どこの食堂でもよく出される地元の料理をつまみながらいろんな話を聞いた。彼女はコロンビアではデザインを学び、ジュエリーデザイナーとして実際に働いていたらしい。しかし自分はファイン・アートの方面にもっと興味があると感じてここに来たという。このような写実を学ぶ学校はコロンビアにはなく、気になる学校はフィレンツェとバルセロナにあった。なぜここを選んだかと言えば、スペイン語を使う自分にとってここはフィレンツェよりも生活しやすいから・・・。

食事の後、ホテルまでは5分程度の距離だったろうか、歩いていると何か背後に気配をじた。ふとみるとすぐ後ろにぴったりと張り付くように2人の若い女性が・・・。いやな感じがしたのでちょっと目で牽制しながら足を速めた。もういいかとおもってもういちどふりむくと、まだぴったりと後ろにくっついてきている。こりゃやばいなと思い、道を外れて先に行かせた。完全にスリだな。危うく被害者2号になるところだった。

そんなわけで慌ただしく2日目が終わった。Karenは翌日の朝、迎えに来てくれることを約束して帰って行った。帰ってから聞いたところでは、日本人メンバーは激しく情熱的なフラメンコを見ながら時差ぼけで眠りこけていたンだって。

そしてついでに今日の私の話を聞いた島村氏が、面白そうだから明日そっちに加わりたいだって。それも面白いだろう・・・、ということで一旦このブログもここまで。おやすみなさい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください