スペインでのこと(その3)

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スペインでのこと(その2)の続きです。

5日目。「遅刻したら首!」の記者発表は昼過ぎにMEAMにて行われた。昨日のレセプション会場には椅子が並べられ、地元の記者達を前にMEAMとホキ美術館の代表からの挨拶。出品作家達を代表して野田弘志氏の挨拶が行われた。一通りの質疑応答のあと、各作家の作品前に移動し、それぞれの作品を語ることになった。会場の入り口付近から順に塩谷亮、野田弘志、大畑稔浩、島村信之、小尾修と続く。通訳はスペイン在住の非常に優秀な日本人の方で、画家達特有の言い回しや言葉にも戸惑うことなく通訳してくれていた。順調に進んだプレゼンテーション・・・しかし3人目の大畑さんが熱弁を振るう最中、突然空気が変る。なぜか話途中にもかかわらず記者達が皆引き上げはじめたのだ。こちら側は何が起こっているのかわからず頭の中が???でいっぱいの状態になる中、解説を続ける大畑さんを尻目に記者達は向こうに用意されている料理をつまみはじめる始末・・・。

これがこちらのいわゆるシエスタ(siesta)-昼休憩と言うやつらしい。これには皆正直面食らったと言うかあっけにとられてしまったと言うか・・・。結局後に続く島村氏、そして私はスペイン人記者のいないまま自作を語ると言うことに・・・。ほぼ日本人しかいない場所で一流の通訳つきでしゃべるというなんともシュールな状況・・・。これで私のスペインでのマスコミ対応は完全に0点。昨日に続き、マスコミ的には私と島村氏は全くいなかったことになってしまった・・・。一体何しに来たのだろう・・・。

その日は夕食時間までフリーとなったので皆三々五々、散っていった。私はと言うと明日のワークショップの準備もほぼ終わっているのでここに来て初めての全くのフリータイム。どこかに散歩にでも出ようかと美術館の階段を降りていくと、入り口の中庭部分でイベントが行われていた。上半身裸の男性をモデルにキャンバスに描いている画家を取り囲むように見入る人たち。画家はときおり観客に向かって今やっている作業について解説をしている。「こんなところでもやるんだ・・・。」この場所は美術館の入り口で、出入りも自由。お金を払うこともなく誰でも見ることができる。明日は私がワークショップをやるというのにその前日にもやっていると言うことは、このようなイベントはそうとう頻繁に行われているようだ。このような屋外でのデモンストレーションも日本ではなかなか見ることはない。翌日のことも考えながら最後までゆっくり見学させていただいた。ところで勿論この時は全く知らなかったことだが、このデモンストレーションをしていた画家は今回のホキ美術館での展覧会に出品する作家の一人、キケ・メアナ (Kike Meana)氏だった。そして彼は今回日本に訪問し、美術館内でワークショップをすることになっている。あの場面を日本で再び見ることができるというわけだ。スペイン作家によるワークショップ参加者募集のお知らせ

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さて、夕飯までにはまだ時間がある。どこに行くというあてもなかったが、行く当てもなくただそこらを散歩することにした。MEAMはピカソ美術館から歩いて1分もしない場所にあり、そのあたりは古い迷路のような町並みが続いている。ただぶらぶら歩くだけでも歴史の重みを感じることができる。目的もなく小道をさまよい、たまたま見つけた小さな店に入ってみたりしながらただ街の雰囲気を楽しんだ。歩き疲れてちょっと休むためにサンタ マリア デルマル教会に入った。会堂の中央あたりの椅子に座ってぼーっと天井を見る。観光客で賑わう周囲の中で、ここは時間の流れる速度がゆったりとしているかのようだ。どれくらいたっただろうか。突然会堂いっぱいに音楽が響き出す。会衆も何事かと皆きょろきょろ辺りを見回している。見ると後ろの方から花嫁姿の若い女性が父親と腕を組んで入場してくるところだった。結婚式・・・。見知らぬ人々が見守る中、花嫁は花婿が待つ最前列に向かってゆっくりと歩いて行く。見ているこちらもなんだか得をした気分・・・。

すっかりいい気分でMEAMに戻り、荷物を取ってホテルに戻ることにした。MEAMの階段を上ると中から軽快な音楽が・・・。中をのぞくと展覧会場のメインホール。我々の絵が展示してある部屋でコンサートが行われている。天井の高い石造りの建物の中では音が反響して建物全体に響き渡るようだ。座って聞いていきますか?と誘われたが、夕食で皆ホテルに集合しなければいけないと遠慮して、そこをあとにした。

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夕食は海辺のレストラン。一番見晴らしのいい席で・・・、のはずだったらしいが残念ながら席が埋まってしまい、真ん中の席で食べることに。なんでも、いい席を予約していたのだが、昼に入った客がそのまま帰らずに食べ続けていて空かなかったとのこと。さすがこっちの人の食事の感覚は立ち食いそば屋の文化を持つ日本人とは違うようだ。食べているうちに日はすっかり暮れ、食べ終わる頃に外で打ち上げ花火が盛大に上がった。皆心からバルセロナの夜を楽しんだ。さて、残すところ、明日のワークショップのみ!

翌日の朝、ほとんどの日本人訪問団は日帰りでのマドリードツアーに出た。残ったのは私とホキ美術館の担当者。須知さん。そして島村氏。私は早めに準備をするため先に歩いてホテルを出た。ワークショップ会場はレセプションや昨日のコンサートが行われていた展覧会場。参加者は22名。半端の2名はたぶん定員20名の所をなんとかという押しの強い人が2名いたということだろう。あとから聞いたところによると募集人数に対して約2倍の応募があったらしい。普段のワークショップの様子を知らないのでこの数字が多いのか少ないのか判断しかねるが、東洋の見知らぬ国から来た画家が油絵の本場で油絵を教えると言うのにこれだけの応募が集まるとは、私自身思わなかった。たぶんこれはFacebookなどSNS上の情報があってのことだろう。参加者の多くは勿論アマチュアだが、アカデミーの学生なども一定の人数加わっていて、ある程度描ける人たちもいたようだ。中にはこのワークショップのために遠くから飛行機でやってきた人や、イタリアからの参加者もあった。

ワークショップは午前10時に始まり、前半は画像を用いた講義と私の使うメディウム作りの実演、後半2時間半ほどでオイルスケッチのデモンストレーションを見せながらの実技という流れだった。モデルはヌードモデルが二人。どちらかを描くことになる。ヌードと言っても下だけははいていたものの、展覧会場と言うことで人の出入りは自由。日本ではちょっと考えられないやり方だ。

次々と入ってくる参加者達。まずは挨拶から。通訳者が一流なので安心してしゃべることができる。「私は皆さんに油絵を教えるために遠く日本からやってきました。日本の画家達のほとんどは今マドリードツアーに出ています。しかし私はマドリードではなくバルセロナを選びました!」拍手!!出だしは快調。そんな軽い調子ではじめ、日本人の私自身の目から見る油彩の魅力について話したあと、自分自身の技法について説明する。日本から持参したサンシックンドオイル(実はヨーロッパではあまり売られていない)と卵黄を使ったメディウム作りの実践。それらを使っての描き出しのデモンストレーション約20分を経て、全員が一斉に描き出すことになった。普段だったらそこからは自分は指導に徹するため自分の絵を引っ込めるか、参加者に場所を空け自分はできるだけ後ろの方で暇を見て描き加える程度にするのだが、今回は私のデモンストレーションをメインにするため、あえて自分がど真ん中の一番いい場所で描き続けながら休憩時間に周りを指導するかたちをとった。参加者の中にはKostasのように初めから描くことをせずにデモンストレーションを見ることに徹する人もいた。実際に描いていて思うのは、西洋人と日本人の体のつくりの違い。凹凸が少なく髪や眉などの毛髪や瞳の色が濃い日本人はまず輪郭を隈取る線的要素が強く見えてくるのに対し、より立体的な骨格を持ち、毛髪や瞳と肌の色の落差が少ない西洋人は輪郭より先に明暗によって浮かび上がるボリュームが見えてくる。元々明暗の微妙なトーンを再現することを目的に発達してきた油絵の具、西洋人を描いてみるとなぜ西洋で油絵が生まれたのかが納得できる。参加者の大多数はアマチュア画家達だったが、正直、この短時間できちんとかたちがとれる人はほとんどいなかったとは言え、この「明暗でかたちを捉える」という見方については日本人以上に苦もなく行うことができているように感じた。

最後の短い時間、Kostasを描いた下層描きの上にグレーズやスカンブルによって色を一気に入れていく様子をデモンストレーションで見せ、無事ワークショップは終了した。

今回、結果的には、描き終わる頃になると描いていた人たちのほとんどがデモンストレーションを見たりスマホで動画を撮る側についてしまい、作品の完成には至らない人が多かったが、それでも何かしら、油絵具の魅力が伝わったのならそれでもいいとしようかと思う。東洋人がMEAMではじめて行う油彩画のワークショップ。一体参加者の目にはどう映ったのだろう・・・。

ワークショップの片付けを済ませ、ホテルに戻る。実は最後にもう一つ、訪ねる場所があった。バルセロナの友人、画家Gabriel Picart氏のアトリエ。実はバルセロナに来る前から会おうと約束していたのだが、なかなかスケジュールが合わず、この最終日にまで延び延びになってしまっていた。彼の家はかの有名なグエル公園の目の前にあり、2日目の観光の際にはその家の入り口から数メートルの所まで”大接近“していたのだが・・・。

ホテルからタクシーを拾い島村氏と二人でグエル公園前に向かう。今回訪れた画家達、Martin LLamedo、Arantzazu Martinez、Gabriel Picartには共通点がある。実はみな、ある一つのプロジェクトに参加するアーティストなのだ。そしてそのメンバーの中に私と島村氏もいる。我々はこの秋に同じ展覧会に出品する予定の仲間と言うことになる。その詳細については近くこのブログでも書くことになると思うが、今はそのくらいにしておこう。 私は以前一度彼の家には来たことがあるが実質2日のスペイン滞在(part-2) 島村氏は今回始めての対面。ドアを開けるとにこやかな笑顔が出てきた。アトリエには前回見た作品がいまだ制作途中ということで置かれていた。作品の前で見ていると、「ちょっと待って!」と言って後ろでパソコンをいじりはじめる。しばらくするとスピーカーから日本語のアナウンスが流れはじめた。この作品のコンセプト、が中に表されたストーリーやモチーフの意味するもの、制作手順やそのために使われているテクノロジー・・・。翻訳機を通しての日本語なので多少のぎこちなさはあるものの、きちんと意味は伝わる。わざわざ我々のために準備してくれたらしい。作品を前にしてしばしの時間を過ごし、彼の家自慢の写真撮影スポット、屋上から見るグエル公園を背景に記念撮影をしたあと、奥さんと二人、我々を近所の散歩に連れ出してくれた。

このあたりならではの建築様式のことなど、いろんなことを説明してくれながらぶらぶらと歩く。細い露地を抜けるとあちこちに小さな広場があり、広場を囲んで並ぶ小さなBARや公園のあちこちで食べたり飲んだり賑やかに過ごす人々で賑わっている。「今日は何か特別の日なの?」と聞くと、笑いながら「そうじゃない。ここじゃあ毎日こんな感じだよ。」と応える。観光客も来ないような近所の食堂で軽食をとりながら話す彼の様子を見ると、言葉は通じなくとも彼が自分の住む町を心から愛していることがよくわかる。バルセロナ中心部の観光地化された雰囲気とは違う地元感たっぷりの街の姿は最後の夜を過ごすのにこれ以上ない場所となった。

そんなこんなで無事、全ての予定は終了し、翌朝早く帰国の途についた。あぁなんて長いブログになったことだろう。いったい誰がこんな長い話読むのかな?これは私の個人的な目から見た話なので登場人物はたまたま私の近くにいた人に限られるが、きっと他の人の目には全然違った景色が見えていたのだろう。今回最年長者として参加されたにもかかわらず一番元気だった野田弘志さんの朝から飲みっぱなしのワインの話。家族で参加した大畑さんの仲良しっぷり、塩谷君はどこで何をしてたのかな?・・・それぞれの話が聞けたら面白いことはまだまだ出てきそうだ。それほどに濃すぎるスペインでの一週間でございました。

ではこれまで。

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