組成室の授業

DSCN5269.jpg 先週から2年生全員を対象とした授業を行っている。前期に作ったエマルジョン地を施した15号のキャンバス地、白亜地を施した4号の板地、またシルバーホワイトを2種類のメディウムで練った絵具を用い、モデルを前に1週間半で制作する。キャンバス地の方はヴェネツィア派以降の技法(ティツィアーノ以降、カラバッジオ、ルーベンス、レンブラントなど)つまり固練り絵具を用い、明部を可塑性のある絵具の白を不透明に用いて表現し、その上にグレーズで色を深める方法を意識した課題、板地の方は反対にフランドル派の技法(ファン・アイク、ウェイデン、メムリンクなど)、つまり絵具の透明性を生かし、明部を下層の白亜地の白さを生かしながら暗部に絵の具層を重ねていく方法を意識した課題となっている。先週1週間で下層描きをさせ、日曜日の1日、乾燥日を取って、昨日から3日間でグレーズを重ねる作業に入る。昨日は彩色作業に入る初日。今回グレーズに使用すDSCN5294.jpgるブラックオイルの説明と使い方、また彩色方法についての簡単なデモンストレーションを行い、その後、各教室での制作という段取りだった。100人以上の学生たち、アトリエも5教室を使うので指導に回るのも斎藤教授と手分けしなければみきれない。単にフランドル派、ヴェネツィア派以降の技法といってもその技法は作家ごと、また同じ作家でも初期と晩年で、そのやり方も様々であり、それらをまとめてこうだと単純に言い切ることはできない。例えばヴェネツィア派以降の技法としてグリザイユによる下層描きの上にグレーズによる上層描きを重ねるという方法があるが、実際それらの時代の作品を見ると、厳密に白黒によるモノクロームの明暗表現をした上に透明色で色付けをしている作品もあれば、ほとんど最初から一発決めのように直に色彩が入ったものもある。また、レンブラントのように、インプリマトゥーラの褐色を透かして見せながら白、黒、褐色の幅で、ある程度色幅を持たせた彩度の低い下層描きを用いたものなど、そのバリエーションは数えきれない。ただしその基本的な構造として、油絵具の2つの特性のうち、下層では可塑性を生かし明暗の組み立てを作った上に、上層では透明性を生かし、色を深める。…という重層構造を持つ点では共通していると言っていい。フランドル派については当時、まだ絵具の被覆力が十分になかった絵の具を用いる中で、板地に施した白亜地の白さを生かす方法がとられている。ここでは絵の具の可塑性は充分ではないため、主にその透明性を生かし暗部に色を重ねていくのが合理的な方法だった。

1週間半という短い授業の中でできることは限られている。実際フランドル派の技法そのものをこの短い期間に体験するなどということは不可能だ。ただ、絵具の重層構造という意味での違いを原理的に知ってもらえれば、いずれそこから生まれた表現の必然性や可能性も見えてくるようになるだろうし、自身の表現に応用する可能性も広がるだろうと期待している。また、パレット上で、混色により色を考えるのではなく、画面上で色を重層させることで色を考える技法を体感することで、少しでも自身の表現の可能性を広げてもらいたい。乾性油という基本的な油彩の接着剤の性質を十分に理解し、利用することで欠点と思われていた乾きの遅さが実は最大の長所でもあることを体感してもらいたい。…、短い授業の中でも、実はこちらの願いは結構贅沢だ。実際今回の学生たちの制作を見ていると、そのうち一部にはすでに何かをつかんだという手ごたえを感じる学生たちもいる。もちろんこの課題が100人以上にもなる学生たち全員にとって実りあるものではありえないことはわかっているつもりだ。ただ退屈な授業、やたらと規制が多い授業、そう感じた学生がいたとしても仕方がない。でも、そうした制約の中で試行錯誤することによってこそ獲得できるもの、獲得してほしい効果や絵の具の可能性がある。一部の学生であってもそれを絵筆を通して体験としてつかみかけ、何かのこの先の制作につながる手掛かりを得た姿を見ることは、教える側にとって大きな喜びだ。今年の学生たちを見ると、(去年は1年休んでいたのでわからない。)以前に比べ、しっかり形態をとらえることのできる学生が増えたような気がする。理由はよくわからないが、具象を描く側としてはちょっと頼もしく感じている。

 さて、昨日の夕方は斎藤教授の退任記念展「仮説としての絵画」ギャラリートークがあった。会場には予想以上の人々が訪れ、急遽開始時間を遅らせて椅子を追加する騒ぎになったが、それでもかなりの人たちは立ち見という盛況ぶりだった。当然そのあとのパーティー、そして2次会も、同じように会場に入りきれないほどの参加者。わが組成室、歴代の優秀な教務補助達もそろい、なんだか一種同窓会的な賑わいも見られた。教授にとってもきっと忘れられない1日となったことだろう。たまたまカメラを持って行き忘れたので画像をのせられないのが残念。

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