日本を感じるとき。

1.虫の声。IMG_9776.jpg

8月末、我が家に帰って最初に感じたことがこれだ。車の窓を開けた瞬間にこれでもかと言わんばかりに鳴り響く蝉の声。夕方にはヒグラシの「カナカナ…」という声が蒸し暑い中にも涼しさを演出してくれ、夜にはコオロギの声。「季節感ってこれだよ。」と今更ながら感動を覚える。最初の晩、窓を開けたまま眠ったのだが、翌日の息子の第一声は「コオロギの声で気持ちよく眠れた。」対する娘の一言。「うるさくって眠れなかった。」フランスで、虫の声を聞いた記憶はほとんどない。セミの声は一度も聞いたことがないし、コオロギの声も…。たぶん虫自体の数がまるで少ないのだ。見た記憶があるのはテントウ虫とカメ虫くRIMG0287.jpgらい。家の窓には網戸すらないが、窓を開けていてもたまにハエや蜂が入ってくることがあるくらいでなんと蚊すらいない。だから真夏に公園にピクニックに行ってもアリやらハエやら蚊に悩まされる必要がなく、まったく優雅にのんびりすることができるのだ。”ウンコ”にさえ気を付ければ。スイスあたりだとそのウンコさえ見当たらないので、まさに最高のピクニックとなる。対する我が家の庭はと言えば、何もせずにただ外に出れば、5分後には蚊の餌食。最低10カ所以上はやられることになる。庭の中はフランスと比べたらほとんど野生の王国RIMG0285.jpgだ。1年間放っておいた庭には雑草がはびこり、奥まで入っていくことさえ困難。下に気を取られていると、いきなり顔から蜘蛛の巣に突っ込むことになる。一歩歩くごとに何らかの生き物がカサカサ音を立ててうごめく。トカゲやカナヘビは獲物を争って争っているし、家の裏ではアリジゴクたちがじっと獲物を待っている。夜になると決まって台所の窓にヤモリが張り付き、明かりを求めてやってくる虫を狙っている。アトリエで夜中、絵を描いていると、窓にバチバチと音を立て、カナブンやらカブトムシがぶつかってくる。見るとそこにはほかにも小さな虫だらけだ。おそらくフランスと日本で同じ1立方メートルの空間内にいる生物の数を比べたら10倍以上の差が出るんじゃないかと思う。そう、フランスから見れば日本はほとんど熱帯地方だ。

2.電車。

先週だったか、久しぶりに都心に出るのに電車に乗った。しばらく乗っていなかったので乗り方を忘れかけていた。そういえばこちらではスイカを使ってたっけ。とりあえず5千円チャージ。しかしあっという間に5百円、8百円と無くなっていくのを見てあらためてこちらの交通費の高さに驚く。パリではバスもメトロもどこまで行っても料金は同じ。百円ちょっとといったところだ。あちらではチケットは電車に乗るときにしか使わないので改札を出るときは素通りだ、それに1年間慣れてしまったため、改札を出るときに少々もたつく。

電車に乗ってまず思ったのは、「きちんとしている」ことだ。パリの電車はあまりきれいとは言えない。ほぼすべての車両に間違いなく落書きがされているし、車両どころか駅から駅の間のトンネル内にもだれがどうやってやったのかと思うほどにびっちりと落書きがされている。駅でのドアは乗客がノブを回してあけるのだが、運転手によっては電車がまだ止まりきる前にロックを外すのでかなりお年寄りにはスリリングな下車となる。車両そのものは、あまり洗っていないらしく、どれも汚れが目立つ。地下鉄ではあまり気づかないのだが、郊外に向かう電車など、窓の透明感さえ失われているほどで、窓の外が黄色くぼやけて見えるほどのものもある。メトロの駅にはトイレがなく、地下鉄構内で寝ているホームレスたちがそこここで用を足すためか、ところどころ小便臭いにおいが漂う。日本の電車はそれから比べてどれもぴかぴかだ。走行音も静か。乗客まで静か。車内放送で駅の案内までしてくれる。パリのメトロにはいくつかの線を除き、車内での案内はない。駅の表示にも前の駅や次の駅の表示はなく、慣れないうちは苦労する。乗客は別にうるさいわけではないが、結構大声で話している人も多い。また、30分も乗っていると1度は必ずと言っていいほど、アコーデオンを演奏してお金を集める人に出くわす。その他にもカラオケ、ギター、トランペット、中には人形劇なんて言うのもある。あとは困っているのでお金をください。という人。結構にぎやかで、日常に音楽があふれているという意味では、街の雰囲気を演出してくれているともいえる。それだからかどうか、車内で寝ている人など見たことがない。いや、寝ていたとしたら何か盗られていたりする。そう、治安が悪いので寝ている場合ではないのだ。駅での放送では「スリが多いので荷物には気を付けてくださいというアナウンスが数カ国語〈日本語も〉で流されていたりもする。これは駅だけではなく、美術館内でもそうだ。そんななので車内には吊り棚というものもない。ついでに関係ないが吊り広告もない。こちらに帰ってきて、きれいな車内につり棚、つり広告、寝ている人や一心に携帯とにらめっこしている人たちを見ると、確かに日本に帰ってきたんだと思う。極めつけは帰りに乗った満員電車。1年間全く忘れていた感覚だ。確かに朝晩の満員電車は日本の日常だった。

どこもかしこもぴかぴかで安全、親切だが、交通費が高く、ちょっと退屈でしょっちゅう満員になる日本の電車。料金が安いしあまり混むことはなく、日常に音楽があり退屈することはないが少々汚く治安も悪いパリの電車。さてどちらがいいでしょう。

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