後始末

昨日はKay君が遊びに来た。引っ越しをするにあたり持って行ききれない画材などをあげるためにうちまで来てもらったのだ。キャンバス、オイル、絵の具など…。模写に使ったパレットも「日本に帰れば自分のパレットがあるからいいや。」とあげることにした。「おー、小尾修のパレット!」と、変なところで喜んでいたが、きちんと手入れされてピカピカのパレットも、彼の手にかかればたぶん3日で使いつぶされることだろう。荷物があまりに多いのでそのまま彼のアトリエまで一緒に持っていくことにする。何度か訪れたKay君のアトリエ。今も窓の外には自家製のサンシックンドリンシード作りのためのプラスチックケースに何リットルかのリンシードが日にさらされている。初めての油絵にしてここまでやる彼の好奇心には敬服する。「じゃあ、おれはこれからルーブルに行ってレンブラントに最後の挨拶をしてくるよ。」と言うと、「じゃあ、一緒に行こう。」ということになった。実は”挨拶”などと言うとちょっと感傷的な感じがあるが、もう一つ、目的があった。レンブラント展に出ていた「エマオの晩餐」。特別展では写真撮影が許可されていない。しかし特別展が終わった後の今、その作品は本来あるべきレンブラントの部屋に戻っているはず。それならいくら写真を撮っても文句は言われない。ディテールの写真を撮るなら今しかないと思ったのだ。…ところが残念ながらその場所に、あるべき作品はなかった。残念。せいぜい残りの目的、感傷的なほうに浸ることとした。良くも悪くも約2ヶ月間にわたって対話し続けてきた2枚のレンブラントの自画像。どういう縁か、この場所で初めて出会い、同じ時間を過ごすこととなったKay君と再び同じようにその場に立ってみると、確かに不思議な感慨のようなものを感じる。これまでもそうだったように、これからも同じようにここでレンブラントと対話する人達が続くのだろう。鎖の一部分にでもなったような気分。「さあ、行こうか。」というと、Kay君、突然レンブラントの絵に向かって「アリガトウ。」と日本語で言いながらお辞儀をし、ニヤッと笑ってこちらを見る。仕方がないのでこちらもフランス語で一言いう。「Merci Renbrandt!」

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