バカンス

すでに帰国まで2週間を切ってしまった。引っ越しの準備が具体的になると同時にお土産も買わなければと気が焦る。そこで狙ったものを買いに出るのだが、行った先行った先店がみんな閉まっているという事態に出くわす。これがうわさのバカンスというやつだ。ちょっと侮っていた。7月からのセール期間が終わるとみんなバカンスで店を閉め、どこかに行ってしまうらしい。なのでパリの市内は観光の中心地にのみ人が集中してそれ以外はどこもがらんとした状態となる。…というような事情で知り合いの方々、お土産には決して期待しないでください。

そんな中Kay君がパリに戻って来た。昨日は彼を連れて帰国を翌日に控えた横井山氏のところを訪問する。横井山氏が、使っていた120号ほどの大きな木枠の貰い手を探していたのでKay君を紹介したのだ。実は横井山氏とKay君のアパルトマンは歩いても5分と離れていないことが分かった。前に一度だけ訪れたことのあるアパルトマン、奥さんが日本から持ってきたという抹茶のセットでお茶を立ててくれる。前日初めてノートルダム寺院の上に登ったという話を聞く。1年間いると思うと意外にみんなが行くような有名な観光スポットには行ってなかったりするもの。いつでも行けるからと、人が多いところはなんとなく後回しにしたままになってしまうのだ。かくいう我々もノートルダムはおろか、エッフェル塔にも登っていない。

Kayくんと二人、がらんとしたパリの町中を木枠を担いで歩く。家には彼のお父さんも来ていた。ちょうどいい、いっしょに昼飯を食べて行けよ。ということになり、すぐに近所のスーパーで買ってきた食材で昼食を作ってくれる。彼は実はベジタリアン、魚や肉類は食べない。食べてもせいぜいチーズくらい。野菜だけでササッと作るのだが、これが結構いけたりする。思わず作り方を聞いた。前菜のサラダ。トマト、ニンジン、すりおろしたニンニク、そこにオリーブオイルをかけ、あとはマスタードとお酢、多少塩も入ってたかな?たったそれだけ。今度うちでも試してみよう。写真はサラダではなく、その後に出てきたメインのほう。こちらはちゃんと作り方を聞けなかったが、紫色のカブみたいなものと玉ねぎ、あと、なんだっけ…、をカレー風味で炒めたものをライスの上にのせ、大豆ヨーグルトをかけたもの。

食事の後、バカンス中に何をやってきたかについて話す。ピレネー山脈のあたりの友人のところに行っていたと言う。そこに”Dojo”があると言う。何かと思ったら「道場」のことらしい。広い家を持っていて、実際何かの格闘技やらヨガのようなこともやっているらしいが、良くはわからない。どんなところで何をやっていたのかここを見ればわかると、あるサイトを教えてくれた。
http://cargocollective.com/ledojo2011

観てみると、そのサイトにはいくつかの映像やら、写真、アニメーション、ドローイングなどが出てくる。なぜかわからないがKay君はボクサーの恰好で飛んだり跳ねたりしている写真のモデルになっていた。聞くと、ボクシングなどやったことはない。仲間の女性に頼まれてただ写真のためだけにやったと言う。要は広い場所で、好きな人がやりたいことを勝手にやり、やりたい人が一緒になってお互いに教えてみたり遊んでみたり…そんなところみたいだ。フランス人たちはバカンスをお金をかけずにのんびり過ごすというようなことを聞いたことがある。彼の過ごしたやり方が世間一般の平均的なフランス人のバカンスの過ごし方とはちょっと思えないが、それでもなんとなく、こういうことかなあとは思わされた。いくつかの映像を見ると、周囲に何もないような自然の中、大の大人たちがただ砂浜で穴を掘ってトンネル作りをしたり、それを崩して喜んだり、山奥の、温泉が湧き出る川で1泊したり、ただただ森の中をうろうろしたり、おかしな仮面を作ってそれを被って遊んだり…、ほとんど目的もなく、ぶらぶら過ごしているように見える。Kay君は今回ヨガを習ってみたり、アニメーションの作り方を教えてもらったり、代わりに油絵について教えてあげたりしてきたらしい。日本人が短い夏の休暇を前々から綿密に計画してどこに行って何をやろうか…、しまいにはくたくたになって帰ってくると言うのとはずいぶん違い、ただのんびりその日の思いつきで動いてるような感じ。これはこれでうらやましい。これも休みが長いからこその過ごし方だろう。

いよいよ帰る日が近づいて来ると言うのが身にしみてきた。それにつれ、これまでお世話になってきた人たちにも会っておきたいという気持ちが自然と生まれるものだ。 今日は午前中、こちらに来る前からの恩人、画家のSさんに久しぶりにお会いした。近くのCaféで1時間ほど話す。前に会ったのはボザールでピンカス教授のクラスに行った時。気付くとすでに半年以上経っていた。今は9月にある個展に向けての追い込み中だと言う。その多忙な中にあって現在、自身の格闘技のビデオの撮影もあったりで、すったもんだの最中らしい。画家としてではなく、格闘技家として名前が出てしまっていることに困ったもんだと話していた。

午後にはルーブルで知り合ったコピースト、Francoisさんのお宅に子供達を連れてお邪魔した。妻は夏休み中の子供達の騒ぎっぷりにすっかりやられてまいってしまい、ちょっと子供達を連れ出して休ませてやらなければ。と考えてのこと。Francoisさんはルーブルでの初日に初めて会った人、その後もこちらの事を気にかけていてくれて、時々連絡を取り合っていた。奇遇にも、比較的近いところに住んでいるということで何度かうちに来ないかと誘ってくれていたが、ちょうど予定が合わず、今日が初めてのお宅訪問となった。

パリ郊外の静かな住宅地にあるアパルトマン。落ち着いた室内から外を見ると、共同の広い庭が見える。庭への出口にはベンチが置かれ、植えられた花々が美しく咲き乱れていた。部屋はきれいに片づけられ、ところどころに飾りつけられた小物達はセンス良くまとめられている。一つの壁面には今まで描いた模写が10数枚立てかけられている。聞くとルーブルからの許可が下りる、年間2枚までの積み重ね。8年分程度だと言う。どれも100号前後の大作ばかりだ。Francoisさんは特に学校で絵を学んではいないと言う。ルーブルが彼の学校、ドラクロアやシャッセリオーが彼の先生という訳だ。大きな戸棚の上には山と積まれたキャンバス。車で出かけては数時間で描いてくると言う風景画だ。もちろん彼はプロの絵描きではないが、こんな普段着の絵画との付き合い方があると言うのは素敵なことだと思う。
…いまごろ横井山夫妻は飛行機の中。どんな気持ちでいるのだろう。…日本は…やっぱり暑いんだろうなあ…。

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