ルーブルで模写したい人へ。(その2)

ついでに実際の模写作業に入った後のことも少し書いてみようか。
模写の許可が下りるとそれから3日のうちに作業を始めなければならない。与えられる時間は3カ月。大きさとは関係ない。ただし万が一延長したい場合…、これは担当官との関係いかんによる。実はKay君はちゃっかり1カ月ほど延長してもらっていた。さすがは自称”ナイスガイ”

初日にはまた模写事務所に行き、担当官から説明を受ける。まずは支持体が申告通りのサイズになっているかの確認。次に書類の内容が正しいかの確認。それと同時に正式なカードサイズの許可証を受け取る。この許可証を見せることにより、模写が仕上がるまでの最大3カ月の間、美術館への出入りが自由になる。混んでいるときでも並ばずにはいることも可能。ただしナポレオンホールで開かれている特別展にはこの許可証では入れない。次に持ち物の確認。危険物などないかどうか…。その後、作業時間の説明。部屋によって多少休みの日が異なる場合があるが、基本的には美術館の休館日の火曜、観光客の多い日曜は描けない。部屋によっては木曜に閉まってしまう所もあるが、それは途中で変わることもある。描ける時間は午前9時から午後の1時半まで。作品から1メートル以上離れて道具を設置しなければならない。…などなど。そしてこれは贋作が出回ることの防止として作品の裏面と側面、そして表面にもハンコを押される。この時レンブラントのような、明部を厚塗りする絵は問題ないが、特に小品で、薄塗りの作品を模写しようとする場合、このハンコの押される位置によっては仕上げにかなりの影響が出てしまう可能性がある。今回のコローの絵の場合がまさにそれだった。非常に塗りの薄い右下の川の水の部分の上に押されたため、どうやってもハンコの赤い文字が透けて見えてしまい、明らかに作品の邪魔になっていた。幸いというか不幸にもというか、1日目の仕事で大苦戦したおかげで1日目の終わりで一度全て壊して下地の色から塗り直す羽目になったので、結果的にはハンコのあとはほぼ見えなくなったが、フランドル派の作品などを模写する場合、明るい顔の部分にそのハンコが来たらかなり致命的なことになりかねない。
模写用のキャンバスなり板地なりは、基本的にまっさらな状態、もしくは下地処理を施した状態で持ち込まなければならない。しかしあらかじめ作品の輪郭を転写する程度の事は今は認められているようだ。以前はそれもダメだったこともあるらしい。作品は一度美術館に持ち込んだら仕上がって搬出するまで基本的には持ち帰れない。持ち帰るためには許可を得る必要がある。これも、途中持ち帰って作品を交換するなど、許可を得ないまま複数の贋作を生む可能性を考えてのことかと思う。

一通りの説明ののち、担当官と一緒に実際の部屋に行き現場での説明を受ける。美術館内にはあちこちに模写のための倉庫がある。倉庫にはイーゼル、椅子などが置かれており、各自1つずつのイーゼルがあてがわれ、描き終わるまでそのイーゼルを使うことになる。椅子は必要に応じて1つから2つまで貸してもらえるが、今回のように特例的に1部屋に2人入って描くようになった場合(通常は大きな部屋をのぞき、1部屋に1人しか入れない。)、椅子の使用を1つに制限される場合がある。倉庫はきちんと施錠され、関係者以外には入れないようになっている。倉庫のある場所によって鍵の開け方は違うようで、例えばレンブラントを描いていたときの倉庫では、部屋の脇にある電話で守衛さんに電話し、開けに来てもらう。コローの時の倉庫では、倉庫の前に監視員が座っているのでその人に言って開けてもらう。…という具合。道具類は基本的に毎日持ち帰る。イーゼルに収まる範囲内でなら置いて行くことも可能だが、なくなっても文句は言えない。一度絵の具箱に貴重な絵の具以外を入れて置いて帰ったことがあったが、係の人が移動することがあった際、引きずるような形になっていたので持って帰るように注意され、以後、箱は重いのでビニール袋に入れて持ち帰ることになった。作品の裏に立てかけられるパレットと、ひもでイーゼルに縛っておける腕鎮(ただの角材)だけは置いておくようにした。
説明が終わると担当官は事務所に戻り、あとはいよいよ作業開始となる。

模写が完成すると、搬出になるが、あらかじめ担当官に1週間前くらいに連絡し、搬出日を打ち合わせる。その日の1時半ころ、作品のある場所で担当官と会い、書類にサインをした…ように思う。そして持っていた許可証を返却する。返却しないといつまでもただで美術館に出入りで来てしまうので、また勝手に他の模写などされてはいけないための処置だ。自分の時も1枚目のときはきちんと返却した。しかし、2枚目、3枚目のときは本来は返すものだとの前置きののち、「これはあなたへの記念のプレゼントです。」と、そのまま渡してくれた。これには万が一帰国で持ち帰る際、税関でもめるようなことがあった時のため…、という心遣いでもあったようだ。手続き的なことはそれでおしまい。しかしそのまま解散という訳ではなく美術館の出口まで担当官は同行し、確かに外に出たということを確認するために、入口の係に作品を見せて確かめさせる。そこでようやくすべてがおしまい。…これが実際の作業の流れだ。

最後に今回模写をした際の持ち物など…。イーゼルに引っ掛けてあるのは腕鎮。角材の先にタオルをかぶせてひもで縛っただけ。この先を画面に当てることはないのだが、縛ってあるところを絵の上の角に引っ掛けて描くと安定する。油は画材屋Boesnerで買ったスポイト式の小瓶に入れて持って行った。レンブラントの時は卵黄を別の小瓶に入れて持って行き、必要に応じてナイフで絵の具に混ぜた。筆はタオルにくるんで持っていき椅子の下の床に置いて必要なものだけ取り出して使う。絵の具はビニール袋に入れて。今回は手練りの絵の具をかなり使ったのだが、それらはラップに包んで紐で縛り、絵の具の入っていた紙の箱に入れて持って行った。忘れていけないのがごみ袋、新聞紙とトイレットペーパー。そして飲み水。美術館で買うと3ユーロもしてしまう。うちの近所のスーパーでは1ユーロもしない。0.5ユーロより安かったっけ?実際は家からポット式の浄水器を使った水を入れていく。道具はすべて肩からかけるカバンに入れて持ち歩き、描くときはイーゼルの下へ。カメラなど、貴重品が入っているので置く場所には気をつける。そう、2枚目のレンブラントの時には、近づくと光って見づらかったのでオペラグラスが活躍したっけ。
以上、おぼえていることをあれこれ書いた。時間がたつと忘れてしまうだろう。誰かの役に立てば幸いです。

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