オイルスケッチ(その3)

以前Kay君のアトリエで描かせてもらったイタリア人モデルSvevaさん。彼女は今はすでにイタリアにいるが、その友人のモデルPatriziaさんが私の事を聞いて興味を持ち、仕事をしてみたいということで幾度か連絡していた。今回オイルスケッチのモデルとしてお願いしてみることにした。Kay君がいないので彼のアトリエは使えない。仕方なくうちに来てもらうことにした。とはいっても夕方は子供達が帰ってくるので仕事どころではなくなる。昨日の午前中に来てもらうことに。10時から3時間というスケジュール。実際に会うのは初めてだったが、日本には興味があるそうで、少し日本語を習っているということだ。会話が成り立つほどではないが、知っている単語がちらほら出てくる。こちらのフランス語の実力と彼女の日本語の実力、どっこいどっこいという所か…。
今回も顔を中心にKayを描いたときのような感覚で描き進めようと思った。しかし今回はパネルではなく、キャンバス。下地も油性。2枚目のレンブラントの時のように暗めの茶色がかったグレーにした。使った色は、シルバーホワイト、イエローオーカー、バーントシェンナ、バーントアンバー、バンダイクブラウン。アイボリーブラック、それに青として、レンブラントの使った色とは関係ないが、コバルトブルーを準備した。しかし実際はバーントアンバーとコバルトブルーは使わず仕舞いだった。
結果として出来上がったものは(まだ、乾いた上からグレーズする予定だが。)、かなりグリザイユ調のものになった。肌の部分など、実際はかなりイエローオーカーやバーントシェンナなど、茶系の色が入っているのだが。全体になんだか硬い感じ。まじめな絵になってしまった。板地の場合の、白亜地に明るい茶系のインプリマトゥーラによる下地の上に描く場合、下の暖色を透かして見せることでグレーに近い色で描いても意外に色幅が出る。髪の毛など、バンダイクブラウンだけで描いてもかなり暖かな印象になるが、今回の不透明な暗めのグレーが下地にあると、少し意識的に絵の具で色幅を持たせないと、単純な黒になってしまうようだ。当時の下地が板とキャンバスとでなぜそのように色を違えて作られていたかはまだ実際のところ、よくはわからない。しかし、そのことはまた別の問題として、単純にそういう2種類の下地に対応してどう描くのかを考えた時に、晩年の作品などでしばしば肌の表現など、グレーズを重ねるというよりは、直に肌色を混色された色で置いてあるものがあるというのがなんとなく納得できる。キャンバスに施される不透明なグレーはすでに一般に言われる下層描きで用いられる「デッドカラー」の役目を果たしてしまっているのだ。だから、たんに効率的に仕事を進めようと思ったときに、自然に彩色層を兼ねた方法になって行ったと考えてもいいのかもしれない。今回は描きながらそこまで反応できずにただのグリザイユになってしまった。形も固い。絵としては不満が残る。もう4、5枚同じようなことをやったら筆も自由に動き始め、面白いものが出てくるようになると思うのだが。模写を終え、新しい方法の中で試し始めながら、いよいよ本業の絵描きの部分が出て来始めようという時に、帰り支度を始めなければならないとは何とも歯がゆくもある。技法を考えに来て、単なる技法に終わっただけでは意味がない。絵描きとしては作品と結びついてこそ初めて意味があるのだから。まあ、やれることはやれるだけやるとして、あとは日本に帰ってからの宿題かな。

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