6日目の仕事

実は月曜日に6日目の仕事をするはずでルーブルまで行ったのだが、できなかった。フランスの休日。美術館自体が休みになるわけではない。たぶん祭日は日曜日と同じ扱いで観光客が多くなることから模写ができないようだ。もしかしたらそうかもしれないとは思ったが、イチかバチか、行ってみたのだ。意外と大丈夫なんて事もありうるのではという淡い期待と共に。実際いつものように係の人のところに言うと、すんなり鍵を開けてくれた。これはラッキーと、準備を始めるが、しばらくしてさっきの係の人が来て今日はだめだという。残念。しかし係の人もちょっとすまなそうに ‘desole monsieur ‘を連発するので気持ちよく諦めることにした。フランス人は決して謝らないと聞いていたが、このムッシューはとても丁寧な人らしい。

そんなわけで今日が6日目。一応ほとんどの部分に色は入ったが、まだ全体感はない。全体に生っぽい感じ。だいぶ慣れてきて初日よりは絵の具の扱いが楽になったとは言うものの、どうしてもコローの絵の具にはならない。あの妙なマチエールはなんだろう。簡単に描いてあるので簡単にできるかと思いきや、まるでそうはならない。さっと一筆でのせただけのマチエールが再現不能なのだ。言葉で説明しようとすると難しいのだが、一部のシルバーホワイトを使った盛り上げの部分を除いてこの作品に筆跡の縞目は全く見られない。

全体には薄塗りなのだが、ある程度の厚みを持ってのせられた部分についても筆の跡はなく、ただこんもりと盛り上がったやわらかな起伏があるのみ。しかし、単にサンシックンドリンシードのみで練ったシルバーホワイトのようなグズグズに崩れて形を保たないという感じではなく、ピタッと張り付けたような印象がある。暗い部分のごく薄塗りに延ばされた色は妙な濃淡を示す。筆の痕跡を残しながらもまるで墨絵か何かのように形がぼやけている。見れば見るほどわからなくなる。いくつか接近して撮った写真をのせるが、実際に実物を見なくてはその感じはわからないと思う。さらに言うと実際に実物を見ただけで描いてみなければ実感としてわからないかもしれない。わざわざ自分の醜態をインターネットで流すこともないとは思うが、あえてオリジナルと模写との比較を載せておく(下の段2列のうち右が模写。)。どういう風に再現が不可能なのかが少しわかるかもしれない。手持ちの絵の具ではやろうとしてもこうなってしまうのだ。たぶんメディウムが今回使っているものとは違っているのだとは思うが、果たして何を使ったらあのような状態になるのかは残念ながら今のところわからない。

古典絵画全体に言えることだが、(コローの絵を古典に入れていいかは別にして。)マチエールが丸い。現代の絵の具で描いたときの筆跡がのこぎりの歯のようだとすれば、ここ、ルーブルにある多くの作品にみられる筆跡は、お椀を伏せたときの状態に近い。一見とんがって見える部分もよく見ると丸みを帯びている。これは繰り返されたのちの修復の過程で角がすり減ったためというような説明では説明しきれないものだろう。第一そうだとすればすり減った角の部分だけ、仕上げのグレーズ層がはげて色が変わって見えるはずだが、必ずしもそんなふうな絵ばかりではない。ルーブルにある他の作品を見た中では、フラゴナールの一部には現代の絵の具に近いサックリした筆跡を示す作品が見られるが、意外なことにモネの作品のインパストを見ると思った以上に丸みのある、粘ったったマチエールを見ることができる。単純にチューブ入り絵の具の出現前と後とで絵の具の性質が変わったと言えるもので もなさそうだ。

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