目の話

今日韓国人のチャンさんがオルセーで模写をしているというので見に行った。うまくいかないので見てほしいという。今までの恩返しをしなくては。行ってみるとオルセーの入り口前のものすごい行列。どこがしっぽかわからない。妻がそれらしきものを見つけて並ぶ。ところが30分後にわかったのはその列がすでにチケットを持っている人の列だということだった。並び直し。さらに約1時間並んでようやく中に入ることができた。入ってみてびっくりしたことに、今日は無料だという。全くどうなっているのか。あとでチャンさんに聞いたところによると、(チャンさんも正確なところはわからないらしいが、)美術館の職員のストライキだとかで遅くまで門が開かなかったという。で、開いたものの、売り場の職員が足りないので、無料にしちゃった…。そんな感じじゃないかという。フランスらしい。

ところで列に並んでいて気付くこと。やたらサングラスをかけている人が多い。いろんな国の人がいるとはいえ、やはり西洋人が一番多い。初めはたんにファッションなのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。知り合いの中に旦那さんがフランス人の絵描きの人がいる。先日夫婦を招いて食事をした時の話。その旦那さんも外で会う時はいつもサングラスをかけているのだが、まぶしいんですかと聞いてみた。やっぱりそうだという。太陽をそのまま直視できますか ?と聞くと、とんでもないという。そこでふと気付いたのだが、こちらでは暗くなってもあまり電灯がともっている家を見ない。先日Kay君のところに行った時もかなり暗くなるまで電気はつけていなかった。みんないつもどうしているのか、家にいないのか。また、電燈もほとんどは白熱灯でしかも間接照明。うちのアパートもそうだ。そもそも天井に電源がない。単におしゃれだという程度にしか思っていなかったのだが、聞いてみるとやはり思った通り、暗いほうには強いらしい。直に蛍光灯みたいな強い光を見るとたまらないとか。その夫婦も奥さんは日本人なので暗いからと突然電気をつけると旦那はびっくりしてしまうという。また、ある日、奥さんが気がつくと、旦那さんがろうそくの光で本を読んでいたという。大変ロマンチックな風景だが、実は単にそれでちょうどいいかららしい。その旦那さん、友達の彫刻家のアトリエに行った時、その友人はかなり古いアトリエを使っているらしいのだが、非常に暗いアトリエで高い窓から入ってくる光が暗い背景の中から作品を照らしだし、まるでカラバッジオの絵のようだったという。恐らく昔は今よりさらに暗さに強い目を持ち、そんな中で絵も描けたのではないか。ちなみにドラクロアのアトリエは大きな窓から光が降り注ぐようなアトリエのスタイルだが、古い暗いアトリエも知っていたドラクロアがたぶんその当時新しく生まれたアトリエのスタイル興味を持っての事だろうというのが彼の意見。
レンブラントやカラバッジオ、あの暗闇の中に差し込む光の表現。いったいどんな風な状況で描いたんだろうと思ったら、単に本当に暗くてもよく見える目を持っていたというシンプルな結論にたどり着くのかもしれない。今レンブラントそのままのような表現をやったらどこか嘘っぽくなりそうだが、彼らにとってはそれがごく自然で全くのリアリティ―のある表現なのだ。

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