ベルギー(その3)

もう1週間前の出来事になってしまった。ベルギーの旅、最後。
ゲントまでは、ブリュッセルから電車に乗って40分程度、その日も朝から肌寒く、時折小雨がちらつく天気だった。目的はファン・アイクの祭壇画。駅を出て、通りがかりの人に聞くと路面電車に乗っていけるという。が、歩いてもいけない距離ではなさそうだ。ちょっと寒いが観光がてら、地図を片手に歩いて行くことに。路面電車の線路を頼りに歩いて行けば間違いないはずだ。ゲントも街の印象はブリュッセルに似ている。レンガ造りの暗めでがっしりした建物、パリはかなりアスファルトの道が多いがここでは道路はほとんどが石畳、街の重厚さをさらに演出している。ブリュッセルと違うのは、フランス語の通じる人がかなり少ないらしいのとさらに人が少ないところ。天候のせいもあるかとは思うが、駅前から10分も歩くと人気がほとんど見られない。商店もまばらにあるにはあるのだが、開いている店が少なく妙に閑散としている。重く雲のたれ込めたグレーの空、重厚な建物が整然と並ぶひっそりと静まった街。ふと、ベルギー象徴派のフェルナン・クノップフの作品が脳裏に浮かぶ。彼がなぜあのような絵を描いたのか、理屈ではなく感覚として理解できるような気がする。

パリっ子のKay君にもこの雰囲気は異質に感じられるらしく、「人がいない!」「ゴーストタウンか?」と率直な感想を口にする。建築物にしても、多くはレンガ造りの多少鋭角でシンプルな形だが、古いものはかなりごちゃごちゃと装飾的で、パリのゴージャスさと比べ、一種グロテスクさを感じる。Kay君に言わせると、「モンスターハウス」または「バンパイアハウス」。2,30分ほど歩いただろうか、開けた場所に出る。と同時にいくつもの教会の高い塔。ここがこの町の中心部のようだ。突然観光客たちが目につき始める。その中で最も大きな教会が目的の祭壇画のある聖バーフ大聖堂。聖堂内に入ると思った以上の明るさに驚く。パリのノートルダム寺院他いくつかの教会を見てきたが、堂内の暗さの中でステンドグラスの輝きが厳かさを演出するような印象を持っていた。ここでは窓の面積も広いようで、さらにステンドグラスもその中の一部にある程度、なので曇り空の暗い中でも堂内はかなり明るく感じる。聖書の物語がステンドグラスによって表現される代りにここでは壁面のあちこちに飾られた油絵によって表現されているようだ。

実際ここにはルーベンスの作品もかけられている。ここに来る前イメージしていたのは暗い堂内の奥にあって闇の中に浮かび上がる祭壇画。だったが実際はそうではなく、むしろ絵は見やすい。目的のファン・アイクの祭壇画だが、本来置かれていた場所には現在原寸大のコピー(写真)が置かれていて実物は別の部屋に置かれてある。4ユーロだったか、入場料を払って中に入る(写真撮影禁止)。そうだろうとは思っていたが、やはり実物の存在感には圧倒される。全面ガラス張りのケースの奥にあって至近距離に近づくことまではできないが、こちらが打ちのめされるには充分だ。細部の描写の素晴らしい事は言うまでもないが、全体として訴えてくる力は圧倒的という他にない。多少の画面の黄変は感じるものの、色彩の内側から底光りするような透明な輝き、油絵の完成されたごく初期の時代にあってここまでの作品がすでに描かれてしまったことに、何か到達しがたいものを感じてしまう。ただひたすら見ること30分以上だろうか、名残惜しい思いを残して聖堂を出る。食事の後、もう一度祭壇画を見に入り、その後も徒歩で美術館他とにかく歩きまわる。ブリュッセルに帰ったのは夕方過ぎてから。さすがに疲れてその日は11時頃には眠ってしまった。

翌朝、Kay君はよっぽど疲れたのか9時過ぎまで起きてこなかった。遅めの出発。Etienneさんに別れを告げる。毎朝開かれるという蚤の市へ。3日目になると何となく役割分担ができてきた。Kay君は乗り物に乗ったり店で注文したり、言葉が必要な場面の担当、地図を見たり歩く時のナビゲーター役が自分。例えば目的地に路面電車で行きたいのだが、乗るときはkay君、路面電車の通っている道まで行くのは自分といった具合。もうだいたいどっちに何があるかなんとなくわかってきて勘で目的地に行けるようになったので、ゲントの後半あたりからは、歩くときは自分が先を歩くようになっていた。

蚤の市は骨董市というよりはフリーマーケットに近く、一体これは誰が買うんだというような、どうでもいい日常品の使い古しのようなものが段ボール箱に詰められ並べられているような店が大部分。中にはいくつか時代物の品を扱っているような店もあったがそれほど安くはなさそうだった。いろいろ見た中で、古いものでもなんでもないが形が不揃いなのが気に入った蓋付きの小瓶があった。値段を聞いたら8つで3ユーロという。顔料や油入れにちょうどいいと思い、買った。MADE IN TAIWAN。結構気に入っている。ここはビールがおいしいとKay君は昨日も昼から3本も飲んでいたが、今日も昼食までに2本飲んでいる。さらにお土産用にスーパーで6本くらい買っていた。そんなふうにのんびり過ごしたおかげで今日最後の目的地、王立美術館での残り時間は1時間だけ。大慌てでの見学になる。ここも、もちろん規模はルーブルにははるか及ばないがさすがに地元だけあってフランドル派の作品が充実しており、しかも管理もいい。非常に鮮やかな色彩のフランドル作品を見ることができる。

ルーベンスの大作もかなりの数見ることができるがルーブルのものと比較すると興味深い。色がまるで違うのだ。同じ作家が描いたのかと思えるほどに鮮やかさが違う。(写真。右がルーブル、左がベルギー王立美術館のルーベンス)

もうひとつ気付いたのは額縁。ルーブルでは彫刻の施されたようなかなり派手な額縁が多いように思うがここの額はほとんどが非常にシンプルだ。これは教会に飾られている作品の額にも言える。ほとんどは黒1色。装飾はほとんどなく金が何本か入る程度。ただし黒1色とは言ってもよく見ると下に赤が塗られていたり、非常にニュアンスが感じられるものが多い。個人的にはこちらの額のほうが好みだ。

時間に追われバタバタと美術館を後にする。気付くとクノップのサムネール画像フを見ていなかった。ここまでせっかく来て…、残念。バスに乗り、揺られてパリに到着したのは夜の9時過ぎ、短いながら、なかなか他ではできない経験のできた3日間。Kay君、ありがとう。

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