10日目の仕事

2週間ぶりのルーブル。朝、バタバタしていて少し遅れる。10時少し前に到着するが、なんだか入口の手荷物検査のところががえらく混んでいる。たまたまそうなのか、それともこれから観光シーズンになるといつもこんななのか…。20分近く並んでやっと入場。あとでKay君に聞いたらそんな時は構わず先頭まで割って入って大丈夫、誰も文句なんか言わないよ。だそうだ。それがフランス式らしい。そう言えばなんだか分からないが勝手に入り込んでた人達も何人か見たな。確かに誰もなんにも言ってなかった。何か言われたらコピーストの証明書見せれば済むらしい。
 今日から彩色…グレーズに入る。背景の黒から始める。黒については前回の模写の時からずいぶん苦労させられてきた。透明で厚みのある黒。ナショナルギャラリーの分析によれば、特に後半のレンブラントの黒には赤や黄色レーキと共に、スマルトが混入されているケースがかなり見られ、スマルトのドライヤーとしての働きと共に、暗部のグレーズに厚みを持たせる役割が挙げられている。前回の模写で一部試してみたが、厚みは出るものの、スマルト自体の粒子の粗さから、ざらついたテクスチャーになってしまい、筆跡が残るような独特の黒の質とは違ったものとなってしまった。初期のものについてはむしろ白亜を混入したもののほうが効果としては近いものとなる。実際がどうかということは別にして。今回の絵については作品の状態からは読みにくいものの、その様な筆跡が残るような黒ではない。しかし透明感を持ったある程度の厚みのある黒だということは言えよう。後期の作品であり、スマルトの使用の可能性は高い。前回の反省を踏まえもう少し絵の具を練りながらしっかりすりつぶして使ってみることにした。前日にあらかじめ日本から練ってきたスマルトをさらになめらかになるまで練り棒で練ってみた。かなりの重労働。わずかな量なのに30分以上かけてもまだ何となくざらついた感じがある。それでも前回よりはかなりなめらかにはなった。スマルトは細かくすると白濁して色が悪くなるということだが、油で練る分には濡れ色になるのでほとんど何の問題もないように感じる。むしろ薄く塗るには細かくしたほうが綺麗なくらいだ。粗いままだと黒っぽい粒子が点々としているだけで色にならない。これがテンペラのような水性絵の具であればまた違うのかもしれないが…。実際に黒、赤、黄色のレーキと混ぜて塗ってみると、確かに透明感はある。結構たっぷり使っても下の色を隠すほどにはなりにくい。サンシックンドオイルが粘っこいので自然と量を多く使うことになることも、透明性を上げる要因になっているようだ。下層の茶系がある程度効いて思った以上にあっさりと原画に近い色が出た。ただ、むしろ透明性が高すぎて、下層の荒っぽい作業がそのまま影響してしまうようだ。もう少し下層で整えておいたほうがよかったかもしれない。
思った以上にスマルトの量が必要だったようで、予定の半分ほどのところで使い果たしてしまった。今日のところは画面の上半分程度のところで止めておく。残りは顔の部分に手を入れる。顔全体のトーンをもう少し落としながら、マチエールの効果を生かすために黒にわずかな白を加えたグレーで顔の部分をグレーズ。次回、乾いていたら赤味を加えていく予定。今日のところは顔色の悪いまま。ターバンの部分も同じグレーで薄くグレーズする。今回ロンドンのナショナルギャラリーの作品を見て色の鮮やかさを感じた。この作品については明らかに黄変が強いように思えるのでターバンに当たる光の黄色味も極力弱めておきたいと思う。

帰り際、Passage Choiseul(パッサージュ・ショワズール)の画材屋に寄り、パッサージュ内にあるギャラリーの前を通る。毎回通るたびに何となく気にかかっていたのだが、いつも開いていなかった。風景画の水彩と油彩。結構うまい。今日は電気がついていたので入ってみた。中に人がいる。東洋人だ。話してみると作者だった。何カ月も前から展示されているのを知っていたので聞いてみると、画廊自体が彼のものだという。自分の作品を展示販売するための画廊。日本ではあまり見たことがない。彼は台湾人だという。中国、台湾の絵描きを何人か知っているが、何となく共通した部分を持っているようだ。「書」の感覚のようなもの…。筆の走る速度の心地よさと、潔さを感じる。
フランスに来て気になった絵が台湾人の作品。…やっぱりなんだかんだ言っても自分の中にはしっかりアジアが根付いているということなのかもしれない。

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