6日目の仕事

実は先週木曜からロンドンに行っていた。目的はナショナルギャラリー。ナショナルギャラリーでは所蔵作品の化学分析データをかなり細かく出していて、今回のレンブラントの模写においてもかなりの部分をここのレンブラント作品の分析結果の資料をもとにしている。実際に文献で読んだ作品を目の前にする機会を持ちたかった。ナショナルギャラリーはルーブルと比べて全体の規模としてはずっと小さいものの、所蔵作品の質は非常に高く、美術館全体を見て感じる印象は、非常によく管理がいきとどいた美術館だということ。作品の展示に関しても過度に詰め込んだ感じはなく、鑑賞しやすい作品の高さ、照明も1枚1枚に気を配られている。特にあれだけ作品の分析データをきちんと出しているだけあって、作品そのものがきちんと手入れされているので、古い焼けたニスがそのままと言った作品がほとんどなく、どれも非常に色が鮮やかだ。これを見ると、油絵具の黄変ってなんだろうと思ってしまう。ほとんどはニス焼けの問題で、描画に際しての油の黄変はちゃんと管理さえしていればほとんど問題ないのではないかと思えてくる。これらの時代の絵ははほとんどリンシードで描かれていることを思うと、あえてポピーを使うことの意味はどこにもないように思える。
 作品の洗浄については、過度に行えばオリジナルの絵の具をも取り去る危険性があり、どこまで行うかについては美術館の考え方によってそれぞれ違うようだが、ここの仕事を見る限りではその様ないきすぎは感じられない。むしろかなりオリジナルの状態に近いのではないかと感じられる。ルーブルの作品はあまりニスを除去することはしていないようで全体的に作品はかなり茶色い印象があるのだが、ナショナルギャラリーに来ると、古典絵画=茶色い絵というイメージが完全にすっ飛んでしまう。目的のレンブラントの作品にしてもそうだ。やはりルーブルの作品は茶色い。しかしここのレンブラントはかなり鮮やかだ。今回模写している自画像と同じようにキャンバスに描かれた晩年の自画像があるのだが、ここの作品は晩年にもかかわらず、かなり描かれた手順が見えてくる。服の部分の影のグレー、わずかに光の当たった袖には茶色の一筆描きのようなインパスト。乾いた上から恐らく黒に赤レーキを混ぜたような色でグレーズされている。別々の色を組み合わせながら一つの空間にきちんと納めていく過程がはっきり見て取れる。非常に美しい色だ。ルーブルの今描いている作品はほとんど服も背景も真っ黒だということもあるがそうした手順がほとんど見えてこない。肌の表現もどこまで最初から色が入っているのか読みにくい。(作品の位置が高くて見えないこともあるが。)ちょうど反対側にかかっているバテシバの絵のほうは恐らくかなりグリザイユに近いモノクロームの厚い下層の上に色がのっている様が観察できるのだが、それとは違うことはわかる。しかし全くのプリマ描きではないようには思えるのだが…。どうやら模写には難しい作品を選んでしまったようだ。ナショナルギャラリーの自画像を見たら、正直、こっちにしておけばよかった…などと思ってしまうが、今さらロンドンに引っ越してくるわけにもいかない。こっちを参考にしながらルーブルで格闘してみるしかない。とにかくまず言えるのは、例えば白いターバンなど、黄色みがかった暖色系の色をしているのだが、実際よりは黄色みは抑えめにしておいたほうがよさそうだ。また、キャンバスの凹凸や、亀裂による表面の状態で絵の具自体のマチエールが見えにくいのだが、もう少し全体に不透明の絵の具をのせていって良さそうだ。今はハイライトの部分以外、全体にかなり薄塗りの部分が多い。
今日の作業。背景と服のあたりを中心に絵の具に厚みを持たせていく。
ロンドンについての話は長くなるのでまた別に書くことにしようか。

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