南仏(その2)アルル

アルルにはもう20年以上前、学生の頃に1度訪れたことがある。フランスを旅した中では一番印象に残っている町。その時の記憶は必ずしも正確ではないかもしれないが、20年を超えた現在も、その街並みはほとんど変わっていないように思えた。泊まった宿はHOTEL DE MUSE という、川沿いの美術館のすぐ近くのホテル。まだシーズンでないからなのかどうか値段は日本のホテルを考えるとかなり安いにもかかわらず、古い邸宅を利用した趣のある建物は小さな中庭を含め、よく手入れがいきとどいている。部屋は3階。エレベーターはなく、チェックイン時に部屋まで案内してくれないので大荷物を抱えて狭い階段を登らなければいけないのは2つ星ホテルとしては仕方ないことかとは思うものの、心地よい室内と、窓から見えるローヌ川の眺めには少々の不便は問題にならない。シーズン前なので、我々以外にほとんど客はなく、中庭と、屋内の雰囲気のある広いスペースはほぼ貸し切り状態で、来るまでの子供達の電車酔いもすっかり吹き飛んだようにリラックスしていた。

小さいが古い趣のある街並み、車の通れないような細い路地が縦横に入り組んでいる中を迷い込むように歩いていると、確かにここはパリとはまるで違うと感じる。パリはもっとどこもかしこも整然と整っている。ここは、もっと雑然としていてなんというか人々の生活感が漂う。洗濯物を決して外には干さないパリの人々だが、ここでは窓の外に洗濯物を干してある様子があちこちに見える。建物を見てまず気付くのは窓。こちらの窓は皆外側に大きく開く木製の扉があり、赤や青、緑など鮮やかな色に塗られている。パリでは外開きの扉が少ない代わりに窓の外側に装飾性の強い手すりが多く見られる。こちらでは壁の色もパステル調の淡い黄色やオレンジ色など明るい色が使われている家が多く、屋根瓦の褐色と相まって、町全体の色調がグレーの印象が強いパリとは対照的にいかにも南方的な明るい色遣いが目につく。町の中心にある古代闘技場の上からアルノ川を望み街を一望できる美しい眺めは20年前と少しも変わらない。
まだ観光客もほとんど歩いていない静かな街並みをゆっくり歩きながら、ちょっとした高台に出る。どこか見たことのある風景。じっと見ながら気づいた。遠くに見える塔、連なる屋根瓦…、20年前、夕暮れ時にここから絵を描いていたのだ。

アルルを去る日、明け方一人で再びここを訪ね、同じ場所から絵を描いた。誰もいない場所に1匹の猫が現れ描き終わるまでそばから離れなかった。20年前は一人の少年がこの猫みたいに見てたっけ。また訪れることはあるのだろうか。

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