南仏

 先週数日間南仏に行ってきた。実はフランスに来て半年、まだパリから出たことがなかったのだ。来て数か月はとにかく手続きやら何やら生活を安定させるのに精いっぱい、12月近くなってからは猛烈な寒波。日も短くおまけに雨、雪、曇りばかりでどこかに出かけられるような感じじゃなかった。ようやく暖かくなってきたこともあり、息子の春休みに合わせてとりあえず南仏あたりに行ってみようと、計画を立てた。そんな矢先に日本で震災があった。毎日画面に映される日本の惨状に愕然とする。楽しみにしていた旅行が急に楽しみに思えなくなった。こんな大変な思いをしている人達がいる中、自分達だけのんきに楽しい思いをしてていいのだろうかという罪悪感のようなものまで感じる。しばらくインターネットのNHKで見る情報に1日中釘づけの毎日が続いた。妻は毎日涙を流し、精神的にもまいっている。しかし日本の知り合いとのやり取りの中で、皆不安を抱えながらも今自分にできることを精いっぱい前向きにやっていることを感じるにつれ、ただここにいていたずらに悲しんだり不安に思ったり、ただ1日中新たな情報を待ちながら動きを止めていても仕方がないと感じるようになった。今回のことで自分達が縮こまっていても何のプラスにもならない。今ここにいてできることを生き生きとやることのほうがずっと必要だと思えた。ここにいてしか経験できないことを経験し、そこで得たものを財産として秋には日本に帰ろうと思った。今一度家の中の気分を一度変える必要も感じ、思い切って予定通り南仏旅行に行くことにした。今回行ったアルル、アビニョン、いくつかの小さな町は美しかった。全てについて書こうとすると時間が足りない。これから少しづつ書けるときに書いてみようかと思う。

TJVに乗るのは今回が初めて。パリのリヨン駅からアルルまで3時間程度と思ったより早い。車窓から見て気付いたのは、パリがいかに小さな都市であるかということ。今までずっとパリにいたのでなんとなくフランスじゅうこんな感じのような錯覚を起こしていたのだが、出発して10分も行くと完全な農村風景になる。広い畑、放牧された牛や馬、ところどころに小さな集落、必ずと言っていいほど集落ごとに1つ教会がある。そんな風景がアルル到着までずーっと続くのだ。途中いくつか原子力発電所らしきものを目にすると、急に現実に引き戻される。この国も原発にかなりの部分を頼っているのだ。

 車窓を流れる風景はやはりかなり日本とは違う。韓国あたりだと、あまり違いを感じないこともあるのだが、ここは明らかに違う。まず、山が少ないからかうっそうとした自然の感じがない。まだ木の葉が出ていないせいもあるのだろうが、日本の場合は手がつけられない状態のほったらかしの自然がもっとあるように思う。ここはすべて人の手が入って区画整理されたような印象がある。たぶん、日本と比べて土がやせているのか、ほっとくとジャングル状態になってしまうようなことがないのかもしれない。風景全体は何か明るく感じる。太陽自体は日本のほうが明るいのだろうが、なぜか全体的に明るく感じる。違いが何かと観察してみると、土の色が大きく関係しているかもしれないと気付いた。関東地方の赤黒い土とは違い、こちらの土はかなり白っぽい。オレンジから白の間のような色合い。なので、日本の場合、草木の間にのぞく土は暗いのに対してこちらは草原の間の土の道が白く見えている。絵でいう地色の違い。明るい下地の上に描いた絵は当然色が明るく発色する。おまけに日本は草木の色がかなり濃いようだ。こちらは同じ植物でも色が薄く、葉の色もさまざまだ。これも土の栄養分と関係があるのか。地形そのものは日本の場合、平野か山か、と言った感じだが、こちらは平野と言ってもそれほど平らではなく、うねうねと起伏がある地形。小さな町の多くはそのちょっとした丘の上にある。いかにも絵にしやすい風景。こんなことを考えながらふと周りを見ると子供達は電車酔い気味、妻も最近の疲れでぐったりしている。先が思いやられる出だしだ。

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