12日目の仕事

今日は背景部分。あらかじめ明るめにしておいたところにグレーズしていく。黒を基調に色味を見ながらクリムソンレーキ、イタリアンピンクなどを加えてみる。乾燥を早めるために若干のバーントアンバー。顔の時もそうだったが、グレーズでトーンを落とすことを考えて明るめにアンダーペイントしたのが思ったより明るすぎたようでグレーズが中途半端に厚くなって少々重たく感じる。アンダーペイントはもう少し完成の明度に近づけておいたほうがいいようだ。結局重たさを避けるために若干の不透明も加えながら(例えば黒プラス白プラスイエローオーカー=緑がかったグレーのように。)全体を調整することになったが、原画はたぶんもっと単純な方法をとっているはずだ。おそらくインプリマトゥーラの上の暗めのグレーを仕上げの暗さ以上に暗くしておいて、その上の明るめのグレーで描き起こしながらほぼ仕上げ色に近い色を出し、薄めのグレーズで仕上げる感じ。実に単純で的確な手順。もたつきがない分切れ味が良く、全ての色が生きている。
おととい塗った顔の部分がすでに乾いていたので、残った時間は顔のグレーズに費やす。主にイエローオーカーとバーミリオンで肌の暖色部分に温かみを与える。かなり微妙な作業になってきた。ある程度近い感じは出るものの、原画のどっしりとした存在感にはまだ及ばない。作業が細かいつじつま合わせになると途端に色に張りがなくなり全体感を失う。鮮度の高い大きな勢いのある作業をしながらも、細部にまで神経がいきとどいたレンブラントの仕事を目の前に、しばし途方に暮れる。気付くともう終わりの時間が迫っていた。

それはそうとお隣のKay君はついにパリでシルバーホワイトの顔料を売っている店を探しあてた。それだけじゃない。喫茶店で話している際、ブラックオイルの作り方を聞かれ、簡単に教えておいたら実際自宅でやってみたらしい。結果は周りの住人に「何の臭いだ、火事でも起こす気か!」と言われさんざんだったそうだが、見るとまるで生のリンシードのまま。反応が起これば褐色がかってくるはずなのだが。においが周りにまで広がるほどになって何の反応もないとはちょっと不思議だ。本当に鉛白を使ったのだろうか…。それにしても油絵1枚目にしてこの積極性。ムサビの学生にもちょっと見せてやりたいようだ。
帰り道、画材屋に寄っていくつか絵の具を買う。アイボリーブラックがなかったので店の主人に聞いてみると、「そこに無かったのか?」という。そうだと答えると黙って口をへの字にして肩をすくめるフランス人独特の”肩すくめ。”それで終わり。いつ入るとかそういう話は一切なし。これがフランス流。だいぶ慣れてきたが、ついつい「また来たなと」ニヤけそうになる。

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