初日の仕事

今日がルーブルでの仕事始め。10時に模写事務所で担当官のイザベルさんに会う約束になっている。今まで助けてくれているチャンさんは昨日から韓国に一時帰国しているため、またまた頼みの綱の孫崎さんに通訳をお願いした。(http://sunlight.tuzikaze.com/)10時10分前にインフォメーション前で待ち合わせすることに。有名なピラミッドの真下でぼーっと待っていると孫崎さんより前にイザベルさんが目の前に現れた。美術館入り口の人ごみの中、向こうから見つけてくれるとは、常に90人ほどが模写をしているらしい中、こちらの印象を残すことには成功したらしい。あとから通訳をしてくれる人が来ると伝えると、事務所に行って待っていると告げ、先に事務所に去って行った。ほとんど入れ替わりにやって来た孫崎さんと共に事務所に向かう。事務所前の(Atrier)と書かれた部屋に案内され、簡単な説明を受ける。作業ができるのは土日を除く平日の9時から1時半。ルーブルの閉館日は火曜なので週4日と言われていた。しかし今日の説明では少し違っていた。レンブラントのある部屋はなぜだか木曜日閉まっている。(木曜日にルーブルを訪れる予定の人は要注意。その日はフェルメール、レンブラント、バンダイク、そしてルーベンスの一部の展示室は見られません。)そこで木曜日に描けない代わりに土曜日に描けるらしい。なので描けるのは月、水、金、土の4日。ちょうど飛び石のような形になり、乾燥時間が取れるのでこちらにとってはかえって好都合だ。その後、実際に現場に行ってイーゼルの借り方、作業上の注意点などの説明をし、イザベルさんは去って行った。孫崎さんはせっかくただでルーブルに入ったのでと、そのままあちこち見て回ると言ってその場でお別れ。さて、ついに1対1でレンブラントと対峙することに。まだ人もまばらな展示室の中、あらためてじっくり眺めてみる。中学生の頃、初めて画集で出会って衝撃を受けた作家レンブラント。当時、父親の書棚から取り出しては舐めるように1頁1頁観ていた。まさか30年後にその実物を前に模写をすることになるとは想像もしていなかった…。作品は初期の自画像、板地の上に描かれている。初期の板地に描かれた作品は白亜地の上に薄い褐色のインプリマトゥーラが施された下地の上に描かれており、下地の明るさが部分的に最後まで生かされている場合が多い。今回の作品の場合でいうと頭髪の明部や顔の影の部分にそれは見て取れる。それに対して背景の一部や顔の明部などにはしっかりと絵の具が不透明に厚くのせられていて画面に物質感と質感をもたらしている。このへんのマチエールの変化を持った表情は画集からではなかなか見えてこない部分だ。
今日の作業はあらかじめインプリマトゥーラを施した下地の上に茶系のウォッシュで形態をつかむ作業。バンダイクブラウンを使っての描きだし。先ほど言った数か所は、特に最後まで下地の明るさが生きてくるため、この段階で実際より暗くしてしまう訳にはいかないので注意が必要だ。この段階ではできればあまり油分を多くは使いたくないのだが、(油絵の場合、初めは油を少なく、仕上げに近付くに従って油分を多くというのが安定した画面を作る鉄則。)そのために揮発性のテレピンを多く使うと明らかに描きにくい。描きながらテレピンが溶かしてしまうので思ったような明暗の調子が出せない。レンブラントの作品の中で、この最初のウォッシュの段階がそのまま見えるようなものを見る限り、どうも、ほとんどテレピンを使ってないのではないかとも思える。そこで今回は思い切ってほとんどテレピンの使用をやめてみた。バンダイクブラウンに多めのサンシックドリンシードを混ぜ込んでゆるめの絵の具にしてからそのまま描いてみる。もっとゆるくしたいときはさらに筆先にサンシックリンシードをつけて混ぜながら描く(鋭い線を一気に引くような場合にはテレピンを使うこと効果的。)。ただし油はあくまで伸びがよくなる最低限にするべきで、テレピンを使うようにジャバジャバ使う訳ではない。今回間近で作品を見て感じたことのひとつに、思った以上に暗い色に体質感があるということがある。単純に明部が厚く、暗部が薄いというだけではない。本当に薄いのは中間調子の部分、もちろん明部は厚いのだが暗部、例えば服の黒や、顔でいえば顎のあたりの明暗の移り変わる暗い部分などはそれなりの厚みを持っている。これはテレピンを使わないことと関係があるのではないか。そのことで何度も重ねようと思うと必然的にメディウムのかさもあって厚くなる。


そんなことを考えながらの約2時間半。今日の仕事を終えた。ちょっと説明的に描き込みすぎた感はあるが、こんなところか。もう少しこの段階から白も入れていってもよかったようにも思う。たぶん実際はもっと大胆で、おおざっぱな把握の仕方ではないか。そこがオリジナルと模写の違い。本人はゼロから探って描くのだから形を見つけるための描き方になるはずだし、自分のリズムで線が引ける。しかし模写では目の前の形に近づけるためにある程度似せるための不自由な作業となる。
次回は乾燥したうえにシルバーホワイトを入れながらの明部の描き起こし作業に入る。背景から攻めるか…。いずれにしても明日休みなので乾燥時間が稼げて助かった。ちゃんと乾いてくれますように。

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