実質2日のスペイン滞在(part-2)

翌日、8時過ぎの電車に乗るため、ホテルを早めに出て、朝食をとることにする。年中無休、朝7時からやってると言うマクドナルドの扉はなぜか閉じたまま。これがスペインルールかな ? 結局駅の近所で一軒だけ開いていたBarに入る。サンドイッチとコーヒーで簡単に済ませる。やっぱりこちらで飲むコーヒーはうまいよなあ・・・。

アートチャ駅8時20分発の電車に乗りサラゴサに向かう。8時20分とは言ってもこの時期日本とは違い、スペインの朝はまだまだ暗い。電車が走り出してしばらくしてようやくあたりが白み始める。9時半頃サラゴサに到着、そのままタクシーで会場に向かう。展覧会場は決して目立つ場所にあるとは言えなかった。近所まで来て、地図とにらめっこしながらきょろきょろしているうちに、Barの中から今回の展覧会の主催者であるJosé氏がひょっこりこちらを見つけて出てきてくれた。しばしBarでコーヒーを飲んで一息入れた後、いよいよ会場へ。会場はこのBarのさらに奥にあった。

今回の展覧会”Algo más que realismo…X” – 2016(リアリズム以上の何か)にはスペインのリアリズム作家達を中心にアメリカ、ロシア、テヘラン、そして日本の作家達が加わり、総勢27人の作品が並べられている。一見して日本でのこうした写実のグループ展とは雰囲気が違う。スペイン特有の・・・という感じがあるにはあるのだろうが、もう少し多様・・・と言った方がいい。非常に古典的な作風のものから現代的な見方のもの、絵肌一つとってもかなり多様だ。日本でこの手の展覧会をしようと思うと、ともすると甘い美人画のオンパレードになりがちだと思うのだが・・・。勿論今回の展覧会自体、海外作家達もかなり入り込んでいるので多様になるのは当たり前かも知れないが、それにしてももっと幅はあるだろう。前日アトリエを訪れたArantzazu Martinezの美しい作品もあった。

以前からfacebookで知り合い、いつか作品を並べてみたいと思っていたロシアのSerge Mashennikovの作品とは文字通り隣り合わせに作品が並べられていた。ネット上だけで作品を見ていて実際にオリジナルを間近で見るのは初めてだったが、しっかりとした絵肌を持ちながら、陰影部にはキャンバス地の明るさを生かした透明感を最大限に利用している。ロシアの写実の伝統をきちんと踏まえた見事な作品。個人的にちょっとうれしかったのは彼の髪の表現。一部掻き落としによって髪の質感表現をしている。最近自分もよく使う方法だ。全く違った国、違った文化の中で絵を学んでいながらおんなじようなところにたどり着くんだなと思うとなぜかちょっとうれしくなる。


Aurelio Rodríguez Lópezがエビを描いた作品を初めて画像で見たときはそれがパステルで描かれたものだとは全く気付かなかった。当然油彩作品だろうと思っていたのだが・・・。非常に緻密に描かれた見事な作品。今回の展覧会の中でもひときわ目を引く作品だった。

アントニオ・ロペスの作品はマルメロ(?)を描いた小さなデッサンだったが、よく見ると縦横に引かれた直線とメモリのような“あたり”がある。映画「マルメロの陽光」で見たあの独特の描き方でこの絵も描かれたのだろうか。

エドゥアルド・ナランホはどこまでも徹底した細密描写で現実を超えた世界を描く画家だが、一方で今回展示されている水彩のような、幻想性を前面に押し出した作品をも多く残している。どこまでも描写し尽くす表現とは違うが、見るものに強烈なイメージを喚起する。日本では見ることが出来ないタイプの作品だ。・・・うちにも1枚ほしいなあ・・・、なんてのは叶わぬ夢なんだけど・・・

再びサラゴサ駅に戻り、そこから2時間弱かけてバルセロナへ。バルセロナに以前来たのは大学3年生の春休み。もう30年程前の話だ。サグラダファミリアの工事は勿論今も続いているが、以前訪れたときよりはずいぶん進んでいるのがわかる。それにしてもなんて気が長いんだろう。作り始めた頃の風化した色合いの部分と、つい最近作られた真っ白な部分との違和感がものすごい。きっとこれもさらに100年経てば違和感なく馴染むのだろう。たぶんそのくらい気長な気持ちでなければこんな気の遠くなるような物作りは出来ないんだろうな。

サグラダファミリアからタクシーに乗って15分程度だったか、ちょっと高台に上がったところにこれまたガウディが作ったグエル公園がある。実はその目の前が次の目的地。扉をたたくと中から人なつこそうな笑顔の素敵な夫婦が出迎えてくれた。

Gabriel Picartは赤、黒、金・・・、目の覚めるような強烈な色彩を用い、そこから生まれる装飾性と、リアルな描写を組み合わせて作品を一つに構成する。石やタイルを直接画面に埋め込んだ作品もあり、どこか目の前にあるガウディのグエル公園の装飾を連想させる。激しい色使いと共に、スペインを強く感じさせる作家。

 

傾斜地に建つ彼のアトリエは決して広大な敷地というわけではないが、ちょっとした秘密基地のような楽しさを感じる。入り口を入ってすぐの階段は屋上まで続き、天窓から入る光が美しい。よく見ると、天井近くの壁面に自転車がオブジェのごとく取り付けられている。モデルとして作品にも登場する娘さんが子供の頃乗っていたものだろうか。アトリエには作品が飾られた接客室から外に出た階段を下っていく。それほど天井は高くないのだが、大作用に、スペースに無駄のないよう、壁には直接角材を組んだ手製のイーゼルが取り付けられ、3段階ほどに高さが調整できるようになっている。絵具がこびりついた洗い場、棚には絵の材料だけでなく、壁を塗り替えるのに使ったらしいペンキ類など、雑多におかれている。これぞ絵描きのアトリエ。彼の制作のユニークなのは、エスキース作りのためにコンピューターグラフィックを用いること。できあがる作品はあくまでも油彩らしい油彩画なのだが、作品の構想が浮かぶとまずパソコン上でその基本的な舞台設定を作り、色、かたち、そして光の方向などすべてをシミュレーションして構想を練るのだという。自分だったら描いた方がはやいと思うのだが、使いこなせれば、確かにいくらでも部分のかたちや色を変えることが出来るだけでなく、光源や視点の位置さえ変えてみることも出来るわけだ。時代と共にやり方も変わる。これまでもずっとそうであったように・・・。

夕方、Gabriel夫妻と共にバルセロナのMEAM美術館(Museu Europeu d’Art Modern de Barcelona)を訪れた。MEAM美術館は主にスペインを中心にした現代写実絵画を扱う美術館。日本で言うならホキ美術館と非常に近い美術館と言えるかもしれない。美術館は現代的なホキ美術館とは対照的に歴史を感じる重厚な建築物。入り口は町中の「あれ ?こんなとこに ??」と思えるような場所なのだが、入ってみると意外なほどにスペースが広い。個人的には美術館の展示室の壁の質感がたまりませんでした。ハハハ・・・。

私が行ったときはハンガリー生まれでフランスで活躍した画家、サンドルフィの展覧会の会期中だった。現地スペインのリアリズム作家の作品が見られなかったのは残念ではあったが、サンドルフィの作品には以前からとても興味があった。実際にオリジナルを見るのは初めてでもあり、興味深く見ることが出来た。率直に言って間近に見るサンドルフィ作品はびっくりするほど薄塗りであっさり描かれており、物質としての絵画の魅力はあまり感じられなかった。しかしその作品の持つイメージの強さは圧巻で、遠くから見ても一度見れば目の奥に焼き付いて離れないだけの力があるのは認めざるを得ない。

時間があればじっくり見たかったところだが、駆け足で通り過ぎるように一回りして美術館を後にした。

晩ご飯は近くのレストランでおいしいスペイン料理を食べ、2日目を終えた。

短い滞在。翌日飛行機に乗って帰国、木曜の夕方成田に着き、そのまま自由が丘のカルチャーセンターに直行 !家に帰ったのは夜10時半過ぎだった。

いつかまた、今度はゆっくり旅したいものでございます。

0件のコメント

  1. Roberto Melo
    2016-12-16

    Foi uma linda aventura! 🙂

    返信

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